DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

Month: September 2009 (page 2 of 2)

床屋とサンデーソングブック

 近所の床屋に通うようになって随分経つ。その床屋は基本的に主人夫婦で営んでいて、何年か毎に入れ替わるインターンがそれに加わる。ずっと前は先代の爺さんが昔馴染みの客が訪れた場合のみ鋏を握っていたが、何年か前に完全に引退した。余りにも長い間通い続けていると、この店の推移までも見て取れるので、妙に感慨深い気持ちになったりもする。

 この店は自宅が併設されており、そのどちらも二階建てである。つまり店の二階にも散髪台が在る。そしてこの空間がとても気持ち良くて、それ目当てで通っていると言っても言い過ぎではない。道路に面した大きな窓からは惜しみない陽光が入り部屋を満たす。そしてどの季節に訪れても絶妙な空調が客をもてなしてくれる。一体どうすればそんなにも心地良い設定が出来るのか不思議に思えるくらいだ。空気がとても柔らかく、まるで微睡みの為に作られたかのようだ。
 そして更には、店内にはいつも東京FMが流れていて、僕は日曜の午後に訪れる事が多いせいか、山下達郎のサンデーソングブックがよく流れている。これがまたとても具合が良くて、もともとFMの音は柔らかくて好きなのだが、放送する音源自体を山下達郎が拘ってリマスターしている(具体的にどうとかは解らない)からか、耳心地の良いオールディーズが開放的な気分にさせてくれるのである。正に日曜日。幸いな事に主人は無駄に話しかけてこないので、思う様この状況を満喫出来る。

 髪の毛を洗って貰ったり切って貰ったりする環境としてこれ以上はないような気がしている。だからこそ僕はこの店にずっと通い続けているのだし、これからも通い続けるだろう。こういう自分の身体に直接触れるような場所では、ほんの少しでも不快な要素があると自然と遠のいてしまうものだ。その要素が見当たらないのだから、自分の生活の中に変わることなく残しておきたいのである。

秋の好きなところ

 すっかりと秋の色を帯び始めた今日この頃であるが、些か急な変化に戸惑っている。季節が順当に進めばまず、陽気は夏の余韻を残しつつも大気は乾き、空は涼しげな風を吹き流し、地上では黄金色の陽の光の満ちた時を過ごすはずなのであるが、何故かしら今年は気温がやけに低い。朝方に寒くて目を覚ましたりする。僕はそういう経験が本当に好きではないので、朝冷たくなってしまった水道水で顔を洗う時なんかに軽く落ち込んだりする。ああ、これから先は益々冷たくなっていく一方の水で顔を洗わねばならないのか。と、既に冬に対する恐れを抱いていたりもする。
 これから僕が過ごす事になる季節にはこんなにも色々な良いところが在るのだ、と念頭に置いて暮らして行かねば、日々を繰り返していく事が憂鬱で仕方なくなってしまいそうだ。それはとても嫌なので、今年の初めにも書いたようにこの季節の良いところを揚げて行こうと思う。何故かこういう事はその度毎に思い出しておかないと、去年の事などすっかり忘れてしまっているのだ。

  • 空の高さ。
    実際には雲が薄く高い位置に流れているので空を高く感じる。夏の空に比べて圧迫感が少なく何かしらほっとした気分になる。
  • 虫の声。
    遠くに近くに、様々な角度から聞こえてくるこの音声は、心地良い距離感をもって僕を慰める。
  • 11月に一日だけ遠くから風に乗って届く畑焼きの匂い。
    確認した事はないのだけれど、恐らく千葉の方から。毎年一日だけ気付く。
  • 稲やススキや葦の穂が風に揺れる様。
    しかしその姿にお目に掛かれる事はなかなかない。荒川の辺に葦は生い茂っているけど。
  • その年に初めてセーターを下ろして頭から被った時の衣類の匂い。
  • デザート・ブーツの皮の柔らかさと可愛らしさ。
    今は持っていない。その内に是非手に入れたい。
  • 日本酒の舌触りのまろやかさ。
  • 梨のシャクシャクとした歯応え。
  • 新茶の新鮮さと柔らかい味。
  • 本(特に文庫本)の活字の美しさ。
    何故だか知らないけどこの季節が一番目に優しくてくっきりと映る気がする。
  • J.S. バッハのチェロ・ソナタ
  • ジュール・マスネのタイスの瞑想曲
  •  こんなところか・・・意外と少ないな。何だか観念的な事柄が多いし。夏に脳が溶けてるから、その揺り返しかな。

詠歌

秋の音のあちらかしこに鳴る夕べ 月夜の招く猫の集会

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