相変わらず音楽を聴いたり本を読んだりしていますが、ここのところ、それ以外は仕事をしている記憶しかありません。昨日は23時過ぎの電車で帰宅。僕の隣で吊革に捕まるオッサンは赤ら顔して周りをキョロキョロを見回しています。酒臭いです。本来ならば直ぐにでも場所を移動して、その不快指数150%の状況から逃げ出すのですが、今回は思い留まりました。何故ならば、美しい女性が私の目の前の座席に座っていたからです。
 ブルージーンズに白いレザーのスニーカーを履いて、生成のショールを肩から首に至まで巻いていました。そんなラフな格好の割りには左手にやたらとアクセサリーをつけています。しかし今回の話の中心はそんな事ではありません。肝心なのは彼女がつけている香水です。初めて嗅ぐ匂い(もはや香りとは言えない)ですが、その匂いに包まれていると、もう何だか倒れそうになるのです。もうどうなってもいい、などと思ってしまうくらいに落ちそうになるのです。
 意識が遠のいていく中、僕はふと隣に立つ150%オッサンの存在が邪魔に思えて来ました。この匂いは俺のものだ。嗅ぐんじゃねえ。見るんじゃねえ。僕は乗客が乗り降りするタイミングを見計らい、鞄を押しつけてその150%オッサンを遠のけました。
 さて、どのタイミングでよろけた振りをしようか。そんな心の奥深い声に耳を傾けている内に、あえなく地元の駅に到着。吊革を握る手を緩めました。