この映画(Amazon のジャンプ先はサントラ)の予告編を、何かの映画を観に行った時に観たのだが、その時は正直観ようという気にはなれなかった。デッサンのような画風は好きだし、風景美術も好きな領域だ。ただし、全体のトーンが暗いのと、キャラクターが余りにもデフォルメされているのが気になったのである。しかし観てみる事にした。それというのも予告編で耳にしたギター・スウィングが余りにも良かったからだ。
 結果から書くと「凄く良かった。」やはり最初はデフォルメされたキャラクターが気になったが、この映画の、毒とユーモアをこれでもかという程に詰め込んだ演出には、このキャラクターは欠かせないだろう。主人公の老婆が、孫を救う為に大都市ベルヴィルへ行き、港沿いの橋の下に野宿しようとしている時、ベルヴィルの三つ子の老婆と出会う場面。自転車のスポークをガムランのような楽器に見立て、音を奏でているところに三つ子が歌で参加してくる。もう鳥肌モノである。陰鬱で干からびた場面が一気に華やかな色を帯びる。音楽の凄さを改めて認識する。
 メインテーマ曲の「Belleville Rendez-vous」は本当に素晴らしい。幾つかバージョンを買えてサントラに収録されているが、特にエンディングで流れるバージョンは秀逸だ。ザックザクと脳味噌を切り刻んでくれる。映画音楽というより、今年聴いた音楽の中では一番だ。是非ともデカい音で聴きたい。歌詞も良い。「コンスタンチノープルには住みたくないね。だって韻を踏まないんだもの。」みたいな感じで、これほど高飛車で退廃的な歌詞はフランス人でもなけりゃ書けないだろ、みたいなグダグダな歌詞である。これほどまでに馬鹿馬鹿しく、粋で、笑える映画はそうそうないだろうな。

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