陽の当たる駐車場に寝そべる犬、玄関脇に据えられたベンチで微睡む老人、桜の木の下を二人乗りの自転車で走り抜ける若いカップル、校庭を走り回る子供達、男子に混じってフットサルコートに汗を滲ませる女の子、公営団地のベランダには色とりどりの洗濯物、その脇ではためく気の早い鯉のぼり、団地は本当に多い、線路に近い位置から数百メートル先まで不規則に建ち並ぶ。
 最近は電車の中では本を読んでいる事が多いせいか、これらの景色に気付かなかった。危うく見逃すところだった。僕に取っては、これらは或る意味絶景である。ターミナル駅に着くまで、僕は飽きる事なくこの晴れやかな風景を眺めていた。