とにかく驚いたのは、ギャラリーの数の多さと、その数に負けないほどの多様さです。アメリカのマーケットは、日本と比べものにならないほど層が厚いのです。
 犬の絵だけ、帆船の絵だけを扱うギャラリーもあれば、ワシントン大統領などの肖像画を扱う時代がかったフォークアート専門ギャラリーもあります。このようなギャラリーが存在しているということは、お客さんがいて、需要があるということです。「こんなものが売れるのか」と思うような作品が、目の前で売れていきました。
 考えてみれば、「よい作品」だけが売れるというのもおかしな話です。アート以外の分野の売買でも、よい品物だけが売れるわけではありません。安いものや粗悪ものだって買う人はいますし、売れるわけです。そう考えれば、どんな作品でも何らかの理由で売れるし、またそれが現実なのです。
 「よい作品なのに売れない」というアート関係者は多いですが、「よい/悪い」「好き/嫌い」と、「売れる/売れない」はまったく別の話なのです。つまり、どんな作品でも、交換が成り立てばマーケットができ、お金の流れが生まれる。この認識ができたことがアメリカ旅行での一番の収穫でした。

小山登美夫著『現代アートビジネス』アスキー新書 2008年 pp.35-36