いい作品はどう判断するのかと、よく聞かれることがある。長いこと記憶に残っている作品と答えることが多いが、では若い作家の作品を最初に見たとき、その場でどう判断するのか。それは、その作品が視覚の中に「到来する」「侵入してくる」という以外には表現のしようがない。それは、視覚的インパクトという表現ではすまない何かなのである。こちらの視覚的記憶の蓄積とそのたびごとに積み重ねてきた解釈や判断の集積により、経験あるキュレーターの眼はたえず既視感にさらされている。その既視感ブロックを破って侵入してくる作品は、そこだけモノクロから総天然色になったときのような新鮮さがある。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 pp.4-5