特に物理的存在である作品と身体とが出会う経験においては、身体知とでも呼べる総合的な知性のありかたが重要となる。視覚芸術は、音楽、演劇、舞踏などと異なり、意味・記号的言語と、作品の存在論的言語とが複雑な層となって構成されている。それは、文節可能な世界とそうでない世界の境界にまたがって存在する。アート作品には分析が困難な、異なったレベルの抽象化がなされており、それには感情にコミットし、かつ偶然、予測不可能性、超現実といった想像力の分野に関わっているからだ。この不確実な、怪しい、底の知れないソフトウェアを伝達することは、ギャンブルに近い。挑戦的な仕事といえる。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 pp.11-12