キュレーターは、得体の知れない含意と奥行きを秘めた、時を超えた芸術作品(マスターピース)と、表象批判の先鋭のような実験的な作品(カッティングエッジ)をともに扱いながら、現在にそれらが存在することの意味を、展覧会として問いかける。観客や批評界からのフィードバックをもとに、新たな芸術表現を次々と歴史の通時的な軸の中に組み込み、文脈化していくのだ。一方で巧みなテーマ立てや作品の選択、ディスプレイ、場の設定で、鑑賞者を誘惑し、心身ともに鑑賞体験、参加体験に没入させるさまざまな専門知識と戦略をもつ。人びとの意識を変えるという確信犯的目的に基づき、視覚を通した集合意識、集合記憶をすくいとり《文化》としてフォーマット化し、次代に接続しようとする善意の歴史家。それがキュレーターである。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 pp.24-25