台風に引きちぎられたようにぽつねんと浮かぶ白い雲。周りには輝くばかりの青い空が広がり、その端っこには掃き寄せられたように陰を帯びた雲群が幾重にも重なりひしめき合っている。雲が立体的になってくると夏を感じる。そして、この青さこそが夏だと思うのだ。僕にとっての夏とはこの青さの事なのだ。この空は何処へでも連れて行ってくれるし、何処へも連れて行かない。我々が見るのは熱であり、蜃気楼なのだ。しかしながら、後年思い出すのはその光景ばかりなのはどういう事なのだろうか。幻影が記憶を浸食し水彩色の記憶ばかりが私を埋め尽くす。彼の人は光となりて現れる。