彼の《全能性》が狂気の行為に逸脱することなく、この代替世界にとどまりえたのは、その信仰の篤さに与る部分が大きかったといえよう。天使と、狂信的な独裁者の両面をもつ少年がつくった世界が、今我々の心を治療するのは、ダーガー自身が描くことで体験した、妄執を浄化するよどみないイメージ化の過程、イメージとの交感の瞬間を我々が追体験するからである。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.159