美術館インフラや美術教育制度が発達していない国ではいま富裕な個人コレクターが個人美術館や財団をつくる傾向がある。彼らのコレクションはアーティファクトと呼ばれる歴史的・考古学的産物から植民地時代の絵画、二十世紀の近代絵画・現代アートまで幅広く及ぶ。そしてローカルに徹底することで、そこから入手できる最も質の高いものを収集していることが多い。彼らの美学やローカルの文化史に関する個人的視点と知識により、それらは歴史的な一貫性をもって示される。例えば私が調査した範囲では、インド、フィリピン、マレーシア、ブラジル、アルゼンチンなどで国立美術館よりはるかに質の高いコレクションを個人コレクターが所有している。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.171