水面に触れるような坂本龍一のピアノ。ナレーションというより日記を読み返すように呟く西島秀俊の声。それらが主人公トニーの静けさの中で抑えられた崩壊寸前の精神の均衡を表しているように思える。イッセー尾形、宮沢りえの演技は決して彼等の感情を映し出さず、他者との間の透明な壁の存在を思わせる。他者への深い諦めと、自分に対する忠実さを人型に押し込めてしまえば、簡単にトニー滝谷が出来上がってしまうように思う。各場面で、まるでピリオドを打つように映し出される大きなガラス窓、そこから差し込む美しい光に救われたような気持ちになる。