国際政治学や国際関係論においては、一六四八年のウエストファリア条約後における三〇〇年間の欧州のように、主権国家間の勢力均衡的なパワーゲーム(ゼロサム・ゲーム)、すなわち、紛争的性質が国際関係の本質であると捉え、近年における経済や情報・文化のグローバル化の進展によっても、主権国家の卓越性や基本的な国家機能は変わらないとする前提で数理モデルなどで分析する立場と、グローバル化の進展やEUやIMFのような国際機関、さらにはグリーンピースなどのNGO(非政府組織)、インターネット等の台頭が主権国家の性格を変えたり、国家間関係の性格をより協調的にする、いわばノン・ゼロサムゲーム的に変化しているという前提で分析する立場とがある。
 前者がこれまで特に米国においては伝統的にどちらかというと主流をなしてきた「リアリズム」の立場であり、軍事戦略家とも相性がよい。ブッシュ政権のライス特別補佐官やウォルフォウィッツ国防副長官などもそれに当たるとされている。
 後者はリベラリズム(政治思想におけるリベラルとは必ずしも同じではない)、またはその発展型であるグローバル・ガバナンス派と呼ばれる考え方であり、経済学者・エコノミストや石油・エネルギー専門家の考え方と比較的相性がよい。クリントン政権下で国防次官補を務めたハーバード大学教授のジョセフ・ナイなどがこれに当たる。

石井彰/藤和彦著『世界を動かす石油戦略』ちくま新書 2003年 p.26