ホステスクラブは、「男らしさ・女らしさ」が過剰に演出される場所だ。店内では、男性はより男らしく(偉そうに・強そうに)、女性はより女らしく(従順に)ふるまうことが求められる。さらに店側は、ホステスと客との間に「恋人のような親密さ」を演出するため、女性が客からのセクハラや性暴力をはっきり拒絶することはできない。
 どうやって客のセクハラから身を守りつつ、同時に気に入ってもらうか。これがホステスの永遠の課題である。これに彼女たちがどう対処しているのかを明らかにしたのが、川畑智子による「ホステスの媚態」研究だ。
 川畑によれば、ホステスは客からのセクハラを予防するため、しばしば「媚態」という行動に出る。媚態とは、あえて自分から客に触れたり、客に自分の体を触れさせたりといった「思い切った行動」のことだ。要は、「こんなに親密にするのは、あなただけよ。だから、これ以上はセクハラしないでね」というアピールである。このような身体技法は、キャバクラ嬢にもよくみられるが、自分から客の身体に触れても、客からの性的侵入を完全に拒むことはできない。ときに媚態は、客のセクハラを助長することにもなってしまう。
 川畑は他にも、素人ホステスが「ホステスらしさ」を獲得していく過程で、男性に従順であることを強いられ、自由意思を抑圧されるメカニズムを描いている。このように、水商売の現場が女性の意志を制限することでおカネを発生させる仕組みであることは、本書でも前提としておかねばならないだろう。

北条かや著『キャバ嬢の社会学』星海社新書 2014年 pp.41-42