多くのひきこもり事例が自分の体の不潔さに無頓着のようにみえるとすれば、それは清潔さへのこだわりが行き過ぎてしまった結果であることが多いようです。例えば入浴するさいにも、あまりに念入りに洗おうとするため、入浴だけでも何時間もかかってしまう、といった事例がよくみられます。こういう症状を持つ人たちは、入浴するだけでくたくたになってしまうだため、逆にめったに入浴しなくなります。
 また多くのひきこもり事例では、他の家族の不潔さにこだわるのに、自分の部屋はモノやごみで一杯の状態になっていることがあります。さきほどの入浴の例と同様に、部屋の片づけをはじめても、それをあまりにも完璧にこなそうとするため、何度はじめても頓挫してしまうからです。このため、ひきこもり状態の事例では、行き過ぎたきれい好きのために本人は逆に不潔になったり、きわめて乱雑で不潔な部屋で生活しているといったような、皮肉な事態がしばしばみられます。

斎藤環著『社会的ひきこもり〜終わらない思春期〜』PHP新書 1998年 p.45