個人的な事で言えばもう三週間くらい前の話になってしまうが、チョン・キョンファの演奏する姿を観てみたいと探していると、意外にも Youtube にアップされていて、それを見つけてからというものずっと観ていた。特にこの記事のタイトルにした曲の映像は衝撃的で、もう何十回も観ている。韓国の放送局にて録画されたこの演奏は、チョン・キョンファの若さと、指揮者のアンドレ・プレヴィンと共にこの曲を演奏している事から1970年代ではないだろうかと思っていたのだが、よくよく考えると1970年代にヴィデオが普及していたとは思えないので、そうすると1980年代だろうか。まあ、そんな事はどうでも良いが、とにかく観てみなければ何も解らない。

 興味のない人間にとっては大仰でわざとらしくも思えるこのチョン・キョンファの演奏する姿は、時折人間以外の生き物に見える。日常的な感情に従って行動している人間は違和感なくそれなりに見えるが、この瞬間のこの人は音楽に支配されているのだ。どれ一つとして楽器をまともに演奏する事が出来ない僕は、こういう状態の人間を羨ましく思う。自分の奏でる音にシンクロし、己の全存在を音に乗せる事が出来る。全ての芸術は音楽に憧れると言ったのは誰であったか。他人が奏でる音楽に酔いしれているのではなく、自分が奏でる音楽に依存する。そんな状態の人間はもう、音楽そのものと言っても良いのではないだろうか。

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 蛇足な話。1990年に The Rolling Stones が来日する前夜、僕は東京ドームで開催されるそのライヴを観る為に上京していて、八王子に在る友人の部屋でテレビを観ていた。日本テレビで放映されたそのライヴの特番の中で誰かが言っていた。「ロックバンドは聴くものじゃない。観るものだ。」その時の事を思い出しながらチョン・キョンファを観ていた。この映像はそこいらのチンケなロックバンドよりもずっと格好良い。