こうやって窓を開け放って寝転んでいると、色んな音が聞こえてくる。電車が通り過ぎる音。近くに駅が在るので朝5時から夜中の1時近くまでひっきりなしに聞こえてくる。この部屋へ越して来て一年目はそれが気になって目が覚めたりしたが、二年目にはもう慣れていた。地元の駅は気に入ってる。地上にホームが二つと線路が4本在る。ホームから改札へは、階段を上り駅舎へ続く通路を渡る。改札も二階だ。出口へは階段を降りる。地味で懐かしい造りだ。階段を降りれば直ぐにパチンコ屋と煙草屋が在る。或る意味王道である。数年前にコージーコーナーも出来た。中華定食屋はその次の年に改装し5階建てのビルになった。踏切と交差する道を渡ると交番が在り、その隣には不二家が在る。去年、バスキン・ロビンスが併設された。下町にも、少しずつではあるがそれなりに変化は有る。

 ベランダから身を乗り出し直ぐ下を通る道を見下ろす。高校生くらいの男女が自転車に二人乗りで、大きな声で会話しながら走り過ぎて行った。爺が孫をなだめつつ歩いて行く。階下の鉄板焼き屋には今夜も客が良く入っているようだ。時々女性達の嬌声が聞こえてくる。向かいの家に二階の部屋の照明が夕方見た時には切れかかっていて点滅したいたが、その後取り替えたのか今は窓を白々と照らしている。昨夜からチェ・ジウのあの右の頬だけで笑う表情が度々思い出されて、気になって仕方がない。今夜放映されるから観てみようか。男達が大声で何やら話している。次の店に移る相談でもしているのだろうか。

 春の宵は柔らかく凪ぎ、やがて訪れるであろう初夏の匂いを孕んでいる。煙草の煙は暫くの間彷徨った後に、窓の外へと吸い込まれて行く。