帰り道。線路沿いの屋台の赤提灯の下に、同じマンションに住む女が座って酒を飲んでいるのを見かけた。屋台のオヤジは嬉しそうに相手をしている。週に一度、この光景を目にする。時折、この屋台の常連らしき老いた男が同席している事もあるが、何れにしても彼女は何くれとなく男達の世話を焼いている。老男が帰ると言い出せば「そんな事言って、帰る家あんのー?」などと引き留めたり、屋台のオヤジにタオルや灰皿を手渡しながら話かけたりしている。そのうちに彼女が屋台を手伝ったりするのではないか、と内心思っている。そんな光景を見遣りながら、僕は横を通り過ぎているのだが、たまにふと、彼等の中に割り込んでみたくなる。しかし、だ。彼等の間には既に完成された何かがあるような気がしてならない。例えば赤と緑の補色の関係のような。僕がそこに割り込んでしまえば、補色でバランスを取った画面構成の中に不躾な色を混ぜるようなものだ。捨て色になるつもりもないし。僕は黙って通り過ぎるべきである。