DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

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夢の残骸(前編)

 何だか夢をよく見るようになってしまった。と言っても印象的なものは1・2週間に一度くらいだけど、以前は殆ど見なかったのでそれと比べれば頻繁に見ているように感じる。原因は最近睡眠時間が安定していないからだろうか。それとも陽気のせいだろうか。
 今回は少し長いので二度に分ける。夢見ていた時間は短いし、相変わらずイメージが散漫なのだけれど、それを無理矢理繋げていたら長くなってしまった。取りあえず記しておく。

 ★

 目を覚ました時、僕は雑魚寝状態の和室の部屋で布団にくるまっていた。和室と言えども入口は一つで、8畳ほどの部屋の突き当たりから右に折れるようにまた8畳が在る、不思議な間取りの部屋であった。僕は丁度曲がり角に当たる部分に寝ており、近くにはブラウン管の小さなテレビが在った。外はまだ暗く真夜中であるようだ。僕は再び目を閉じる。

 半覚醒の僕の耳に、何人もの人が何度も部屋を出たり入ったりしている物音が聞こえた。

 くぐもった人の声が小さく聞こえる。薄目を開けると、人工的な光が目を打つ。誰かがテレビを観ているようだ。しかもその音声から察するにアダルトヴィデオのようである。迷惑に思いながら僕は被っていた布団を引き剥がした。意外な事にアダルトヴォデオを観ているのは女であった。

「あの・・・」

「なに?」

「なんでそんなの観てんの?」

「さあ」

 女は20歳を少し過ぎたくらいだろうか。短い髪の毛、額に垂れた前髪の奥の眼差しは半ば閉じていた。僕は画面に目を遣る。そこには隣にいる女と同じ顔の女が喘ぐ姿が映し出されていた。

「ねえ、これ君なの?」

「そう・・・去年のわたし」

「そう」

 僕はそこまで訊いたところで急に眠けを感じ、布団を被り再び目を閉じた。

 –

 再び目を覚ますと、女が同じ布団で寝ていた。僕は女の身体を引き寄せ、そのまま眠りに落ちた。
 –
 閉じた瞼の向こうに明るさを感じ、目を開ける。朝のようだ。傍らに女の姿はない。起き上がって部屋の中を見廻すと、布団に埋もれた人の身体が点在する。起きて身支度をしなければ。これから何処かへ行く当てがあるようには自分自身思えなかったが、とにかく此処を出なくてはならないようだ。僕は脱ぎ捨ててあったジーンズを穿きネルシャツを羽織って、デイパックに荷物を詰め始めた。
 すると、部屋の反対側で同じように荷造りをしていた男が声をかけてきた。

「なあ」

「なに」

「おまえと一緒に寝てた女、連れか?」

「いや、違う」

「じゃあ何だよ」

「知らないよ」

「何だそれ。ちぇ。まあいいや」

 僕が荷物を持ち立ち上がって部屋を出て行こうとすると、先ほどの男が再び話しかけてきた。

「あのさあ、あの女、俺前にも見た事あるぜ」

「この町で?」

「いや、此処じゃない。もっと西の方」

「何してた?」

「なんかなあ、繁華街だったんだけど、暴れてた」

「暴れてた?」

「そう。最初酔ってるのかと思ったけど、そうでもなさそうだった。とにかく絡んでくるおっさん達相手にまともに立ち回ってたよ。そこら辺にある物片っ端から投げつけたりしてさ、走り回ってた」

「ふうん、何だろな」

「何だろうなー。でも、もう関わらない方が良いかもよ? 何だかジャンキーっぽいし」

「そうかな?」

「ああ、そう思うね」

「詳しいね」

「似たようなの何人も知ってるからな」

「そうか」

「そうだよ」

「ありがと」

 僕は部屋を出て玄関まで歩いた。ひどく安普請な旅館で、何故こんな所に泊まろうと思ったのかまるで思い出せない。そして玄関を出て表の通りに差し掛かったところで携帯電話が鳴った。

夢の残骸

 昨日の朝はごく短い、全く違う夢を二つ見た。短いがとても印象的な映像だったので記しておく。

 ★

 僕は田園の緑がたゆたう風景を眺めながら、機関車に乗り、長い時間をかけてとある町へ向かっていた。夢の中の設定では僕の生まれ育った町であるらしい。その町は広大な平野部を走る国鉄線の行き止まりで、何故そんな開けた場所を終着駅にしたのかよく判らないが、とにかく線路は其処で終わっていた。果たして駅に着いてみると、そこには乗降の為のホームなど無く、ただ芝生の生い茂った地面が拡がっていた。出迎えらしき数十人の老若男女が線路を囲み、走り回る子供達の手には風船が握られていた。何か特別な日だったのだろうか。僕にはそんな覚えは全くないし出迎えに人が来る予定もなかったが、とにかく僕は他の乗客と共に列車を降りた。
 少し離れた場所に立ち、談笑している二人の女性に目を止めた。見覚えがあると思ったら一人はテレビ等でよく見かけていた女優で、一人は中学の同級生であった。二人はそれぞれ子供連れで、走り回る子供達に時折声をかけながらも話し続けていた。何故あの女優がこんな所に居るのだろうか。僕は不思議に思いながら駅舎へ向かう。駅舎は10メートルばかり離れた場所に在り、ペンキで白く塗られた木造の平屋であった。形ばかりの改札を抜け、駅前に拡がる街並みを見て僕は愕然とする。僕の記憶にあるのは古ぼけたそれであったが、今目の前に拡がっているのは店も住宅もどれも皆新品で、どこかオモチャっぽい雰囲気のものばかりであった。

 ★

 僕は夜の街に立っていた。周囲に灯りは無く真っ暗だ。ずっと向こうの地上の灯りが背景となり、目の前に黒々とした高架線路の影を浮かび上がらせていた。僕は不安で堪らなかったが、自分の足元すら見えないので動く事が出来ない。吹き抜ける冷たい風は体温を奪い、僕は堪えられずにうずくまる。すると、風の乗って笛の音が聞こえて来た。するすると流れるように音は僕の周りを駆け抜ける。そして突然鋭い音で笛が鳴ると、彼方此方に1メートルから2メートルくらいまでの、様々な大きさの縦長の赤提灯がぬっと現れた。提灯には、勘亭流の文字と梵字の間くらいの読めない文字が黒く描かれている。それらの灯りは朧気で僅かに揺れている。人間が掲げているのだろうか。そして相変わらず周囲は真っ暗なままだ。
 僕は暫くその光景を眺めていたが、堪えきれずに一番近い提灯へ向かって歩き出す。

 ★

 そこで目が覚めた。

夢の残骸(三番目の夢)

 最後の夢は、これもまた同じ様な平屋作りの一軒家での話で、しかし今度はちゃんとその家に住んでいるようだった。但し僕一人ではなく、同居人が居た。

 -

 玄関は青く塗られた木扉。その上には傘を被った電球が灯っている。勿論それは誰かが家に居なければ灯されない訳だが、その時は僕だけが居た。真夜中の3 時、どっぷりと夜に浸かったこの家の玄関の扉が乱暴に叩かれる。外から同居人の声がした。開けろと言っているようだ。僕はベッドの中で読んでいた本を傍らに置き玄関へ向かった。沓脱ぎの灯りを点け扉を開けると、案の定酔っ払った同居人がふらふらと身体を揺らしながら立っていた。

「・・・なんで早く開けてくれないの」そう言いながら同居人は怒ったように扉を強く閉める。

「鍵はどうしたんですか」

「・・・無くしたわよ、そんなの」そこまで言うと、同居人は力尽きたように沓脱ぎにへたり込んだ。

「また酔っ払ってるんですか」

「・・・いいじゃない別に」

 同居人は女である。しかし恋人ではないようだ。一体どういう訳で一緒に住むようになったのかは判らないが、世の中にはそういう事もあるのかも知れない。この家の玄関を入ると廊下が真っ直ぐに伸び、突き当たりに台所と浴室とトイレが在る。そして廊下の左側に僕が住み、右側に同居人が住んだ。これ以上はないほどの同居向けの住居だ。

「今日は誰と呑んでたの」僕は同居人から鞄を受け取りながらそう訊いた。

「・・・うーん、あっちゃんとキヨ坊と・・・えーと、シマズさんとヨージ君かな」

 尋ねるまでもなくいつものメンバーだ。学生の頃の友人であったり、仕事を始めてから知り合った人であるらしい。同居人は街中の本屋に勤めていて、仕事がはねた後には必ずそのメンバーの内の誰かと食事を共にし、酒を呑んで帰って来る。そして週に二回、特に休み前の晩などは、都合のつくメンバーを全員集めて明け方まで呑んでいる。場所は居酒屋であったりクラブであったりするが、店は大体決まっているようだ。
 そういう習慣を咎め立てする気はないのだけれど、酔い方が酷いのが気になっている。今夜のように正体を無くすまで酔っている事が度々あるのだ。どうしてそんなになるまで呑むのかと、以前に一度尋ねた事がある。でも何も答えてくれなかった。傍から見れば、同居人は淡々と酔っ払いその果てに正体を無くす。まるでそれが決められた事であるかのように。そして、玄関での僕とのやりとりも、いつも同じ事の繰り返しだ。同居人が扉を叩いて僕を起こし、玄関を開け、僕がそれを咎めると鍵を無くしたと嘘を吐く。

 うなだれて、すっかり動かなくなってしまった同居人の足元に蹲り、僕は彼女のブーツを脱がせた。

「・・・此処に帰ってくるとさ」

「うん」

「・・・いつもあんたは先に寝ちゃっててさ」

「うん」

「・・・凄く淋しいじゃない」

「だったらもっと早く帰ってくればいいんだと思います」

「・・・・・・」

 僕は同居人の鞄を肩に掛け、彼女の脇の下に腕を通し、半ば持ち上げるようにして部屋まで引き摺った。

「・・・でもあんたはその時居ないかも知れないじゃない」

「そりゃあたまには」

「・・・それが嫌なのよ」

「そう」

「・・・誰も居ない家に帰るのが嫌なの」

「そっか」

 僕は彼女のコートを脱がせ、ベッドに横たえた。そして毛布をかける。戸口のスイッチに手をかけたところで振り返る。

「安心しましたか?」

「・・・うん」

「じゃあ、おやすみなさい」

 彼女からの返事はなかった。灯りを消して自室に戻り、せめてもと思い一緒に眠った。

 ★

 僕が見た夢の話はこれで終わりである。夢の話であるから、そこには何の意味もない。

夢の残骸(二番目の夢)

 今度は下町の一角。幹線道路から一本中に入った道路沿いに建つ平屋造りの一軒家だが、あまり住宅のようには見えない。鼠色の瓦屋根に板壁は黒く塗られており、窓枠は鉄製でこれも黒く塗られている。一体何のために建てられた家なのか判然としない佇まいだ。玄関は鉄枠の大きな引き戸で、中に入ると大変広い沓脱ぎとなっている。右の方へと目を遣ると、板張りの床が一面に広がっていて、柱は何本か立っているが間仕切りは一枚も無く、30畳ほどの何もない寒々とした空間が在るだけである。そして左側には、奥から手洗い・浴室・台所の水回りの部屋が仕切られつつ並んでおり、最前部の空間には黒革のソファセットが置かれていた。住宅としての最低限の機能は装備されているが、住宅と呼ぶには余りにも殺風景だ。

 -

 辺りの静まりかえったある日の真夜中。敷地の左端に建つ丸太造りの街灯が、真っ黒なアスファルトを照らす中を三毛猫が走り抜ける。玄関左の窓からはブラインド越しに灯りが洩れている。ソファセットの置かれた辺りだ。そして、そのソファに僕は座っていた。他にも、小学校・中学校を共に通った幼馴染みの5人が、ソファにそれぞれ座り、珈琲を飲んだりウィスキーを舐めたり煙草を吸ったりしながら喋っている。中には会話に加わらずに漫画を読んでいる者も居る。

 この夢の中での僕らは30歳くらいで、それはいっぱしの大人であるはずなのに、喋っている事は中学の頃とたいして違わなかった。近所に住んでいる可愛い女の子やアイドルの噂話、嫌いな奴の悪口や、ギターの話や、バイクの話。何一つ変わっていない。彼らは一様に自営業の家に息子として生まれ、今は家業を継ぐべく昼の間は働いている。そして仕事を終え、晩飯も済ませて夜になると、申し合わせたように此処へバイクを走らせやってくる。この家の左側に細い脇道が走っており、それを半分ほど塞ぐようにして、皆はバイクを駐めている。

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 もう明け方が近い。一人また一人と連中が帰って行った後には、空き缶や呑み差したグラスと吸い殻で一杯になった灰皿が残された。

「あいつらときたら、散らかすだけ散らかして帰りやがるなー」

 僕はそれらをゴミ袋に放り込みながら愚痴をこぼす。その家にはベッドや布団の類は無く、そこを片付けないと僕は寝る事が出来ないようだ。
 ようやく片付けが終わり、僕は毛布を被ってソファに身体を横たえる。

「あいつら明日も来るかなー」

 どうやら僕は無職で毎日暇を持て余していて、幼馴染み達が遊びに来るのが待ち遠しいらしい。ブラインドの隙間から僅かな月明かりが差し込んでいる。僕はふいに思いついて半身を起こし、月明かりにうっすらと照らされる何もない家の中を見渡す。この家の半分の床を打ち抜いて、そこをガレージにしたら楽しいんじゃないだろうか。コンクリートを敷いて、壁際に工具棚を並べてもバイク5台は余裕で並べられそうだし、入口が狭ければ壁をぶち抜けば良いだろう。そうすれば連中は入れ替わり立ち替わり、空いた時間に此処へバイクを弄りに来るだろう。そんな事を想像すると僕は嬉しくて堪らない気持ちになり、その気持ちのまま毛布を引き上げ目を閉じた。

夢の残骸(最初の夢)

 殆ど夢など見ないのだけれど、週末に二度寝した時なんかに、睡眠が浅いせいか時折夢を見る。その殆どは映像の断片であり、起きたらすぐに忘れてしまう事が多いのだが、中には印象が強かったり筋道がちゃんとあったりして、後々まで覚えている夢もある。これは数週間前に見た夢の話。どうやら三度寝をやらかしたらしくて三部構成だ。一度に載せると長過ぎるので三度に分ける。先ほども書いたように夢は断片であるので、文章にする為にかなり脚色している。それに夢の中に出てくる主観としての「僕」は確かに僕だが、こうやって文章化しているとやっぱり他人なのである。

 ★

 電車が走り去るのを右手に見ながら線路沿いの道を歩く。道なりに、緩やかに左に曲がるカーブの途中に、スレートの屋根の平屋、白く塗られた板壁の、玄関と窓の造りが洋館のような古びた建物が建っている。建物の周囲には地を這うような平べったい植物が群生しており、壁には蔦が絡まっていた。左右方向のちょうど真ん中に玄関があって、上半分に格子状のガラスがはめ込んである。そしてその玄関の左右には大きめの出窓。そこにも玄関と同じようにガラスがはめ込んである。玄関の上の庇の部分には、木板の看板が掲げてあり、アルファベットで何やら屋号が彫り込まれている。何かの店のようだ。玄関や出窓のガラス越しに、棚に積まれ壁に掛けられた雑多な商品が見えているが、季節は冬のようで、結露で曇ったガラス越しではよく見て取る事が出来ない。どうやら雑貨を売る店のようではある。しかしそこで売られているものは、男である僕が求めるような商品ではなさそうだ。興味を無くした僕は店の前を素通りした。

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 別な日にその店の前を通りかかると、職人が脚立に乗って庇上の看板を取り外す作業をしていた。少し離れた場所に30歳前後の女と、40歳半ばであろう男が立っていて、作業を見上げながら話をしていた。僕は彼らから少し離れた場所に立って、何気ない素振りで煙草に火を点け、その二人の会話に耳を傾けた。

「自分のお店を持ってみたかったの」

 離れていたせいか、その言葉だけが小さく聞こえてきた。栗色の髪の毛を短く切ったその女は俯き加減に、そして淋しそうに笑っていた。男は不動産業者か何かだろうか。一言も発しなかった。商売が上手く行かず、店を手放す事になったのだろうか。恐らく彼女は自分で資金を集め、仕入れをし、販売までも独りでやっていたのだろう。取り外される看板をじっと見つめていた。そんな彼女を見ていると、僕までもが残念な気持ちで一杯になった。

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 ここで時間は遡る。なんと僕はその店の中に居た。何度も素通りして店に入った事はなかったはずなのに、おかしい事ではあるが夢なので仕方がない。

 そう広くはない店内で、20畳くらいだろうか、道路と平行に横長な空間だった。四方の壁際と中央に一列棚が置いてあり、商品が隙間無く並べてある。そして壁にも吊り棚が掛けられ、こちらも同様に商品が並べてある。色相で言えば山吹色から青。黒やその他の濃く暗い色は全くなく、柔らかで華やかな色で店内は溢れていた。素材としては布・紙・木製品が殆どを占め、色彩と素材の織りなす柔らかなグラデーションで埋め尽くされていた。店主である女は角に置いたテーブルの上で伝票を整理している。

「すみません。これ見せて貰ってもいいですか」

 僕はガラスケースに収められた、木を薄く削って作られた栞を指さした。女は伝票から顔を上げ、にっこりと微笑むと、テーブルの引き出しから鍵を取り出した。

「はい、今開けます」

 此処は、彼女の夢にまで見た空間なのだろう。そして、その夢が壊れるのはなんと淋しい事なのだろう。

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