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逃亡記

 ふと、或る文章を思い出した。これは5年前の5月に、とある女性が WEB 上に書いた日記の一部である。引用するのだから出所を明記したいところだけれど、そのサイトは現存するとは言え長い間更新されていないし、当の日記は既に削除されている。なので本人が見たら嫌だろうなあ、と思い内容だけに止める事にする。
 生きることに意味など無いことは、ずっと前から知っている。では問うが、これまで絶対に失ってはいけないものを持つことが出来なかったことの意味は? 問いかけても答える声はなく、ただ風の音が聞こえるだけだ。立ち止まり、月夜に輝く水のきらめきを見つめた。280円で静寂を購入する。
 もう終わっているはずのおまけの人生であり、壮大な暇つぶしの日々である。と思い込もうとしている。まだ私は私の為に生きたことがないような気がするのだ。と言いきかせている。
 100円落とした。目を凝らしても月の光だけでは見つけることは無理みたいだ。問題なのは、これまで絶対に失ってはいけないものを持つことが出来なかったことではなく、絶対に失ってはいけないと感じることが出来なかった己の感性なのではないだろうか。
 いつかはすべて忘れてしまうだろう。忘れてはいけないことまで。遠くの電話ボックスの明かりが、まるで救いの火のように見えた。冷たい風に吹かれて、点滅する赤信号に照らされ、アスファルトの上、ここにこうして立っているワケは?
 一語一句を覚えていた訳ではないが、事ある毎にこの文章を思い出していた。そしていつも、己の不可解さに立ち惑い、自分の感情に根差す何かに固執する事を諦めていたのであった。取り敢えずは誰も死んでいないようだ。良かった。とは言え、僕に何か出来る事が在る訳でもなく、唯一僕に出来る事が在るとすれば、それは「何もしない事」でしかない。一昨日に何処かのブログで読んだように、誰かに迷惑をかけたのならば、自分は立ち去らねばならない。長い間そう思っていた。それは間違いであるのか、そうではないのか。いずれにせよ、僕は疎まれ歓迎されていない場所に留まる事が出来ない。

 追記 : 2006.02.12 そのサイトは先週削除されました。もう存在しません。
          

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