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DOG ON THE BEACH

自分の死に際を夢想する

  • 2010-01-31 Sunday
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 先週の水曜日、昼休みにコンビニへ行こうと僕は外を歩いていた。冷たい風が吹いていたが、空は晴れやかで大気の襞に春の予感を孕んでいた。その時僕はふと思った。いずれはこの世に別れを告げなくてはならなくなるだろうが、出来れば今日みたいな天気の日に息を引き取りたい。そう思っていろいろと妄想してしまうのだった。その内容を以下に記す。

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 早死にはしたくないので、そうだな、僕は齢90を越した老年とする。長らく古い日本家屋に住んでおり、中庭の見渡せる縁側の傍の部屋で床に伏せている。家族は・・・出来れば居て欲しいな。それが妻でも娘でも、何なら息子でもいいんだけど、長患い若しくは老衰で寝たきりになっている僕の面倒を、緩やかに看てくれる人が居た方が画も締まるというものだ。
 季節は冬の終わり。中庭には残雪が残りつつも麗らかな陽射し。風は冷たいが何処かしらに春の息吹を孕んでいるように感じる空気を吸い込み、僕は開け放たれた障子の向こうに、枯れて黒くくすんだ低木や樹木を床に着いたままぼんやりと眺めている。唯一緑を保っているのは熊笹のみで、葉の縁を枯らしながらじっと絶えて春を待っている。いつの間にか三毛の飼い猫が庭に降り立ち、残雪の掘り返している。彼は知っているのだ。其処に未だ見えぬ命が芽吹いている事を。僕は知らないうちに自分が微笑んでいる事に気付く。これまで幾多の季節が流れ、繰り返してきた己の人生が終焉を向かえている事に納得がいった瞬間だ。やがて春が訪れる。そうとなれば新しい命が次々と生まれ出で、この世は受け継がれて行くのだろう。安心した。もう充分に生きた。僕がこの世に留まる理由など一つもない。この世は豊穣だ。僕は目を閉じて、地中にうごめく命の音を楽しみながら、一つ、大きく息を吸い込んで、吐息と共にこの世に別れを告げる。さようなら世界。さようなら僕。そして僕は命の灯りを消す。

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 出来ればその瞬間には、障子の影に、妻か娘か息子に佇んでいて欲しい。一つの命が終わった事を、黙して受け止めて欲しいものである。

空たかく遠くはためく羽根の音

  • 2009-11-01 日曜日
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雲間にうかぶ黒い旗

十月燃ゆ

  • 2009-10-30 金曜日
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神無き空の 淋しさよ

夢の残骸(三番目の夢)

  • 2009-09-27 日曜日
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 最後の夢は、これもまた同じ様な平屋作りの一軒家での話で、しかし今度はちゃんとその家に住んでいるようだった。但し僕一人ではなく、同居人が居た。

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 玄関は青く塗られた木扉。その上には傘を被った電球が灯っている。勿論それは誰かが家に居なければ灯されない訳だが、その時は僕だけが居た。真夜中の3 時、どっぷりと夜に浸かったこの家の玄関の扉が乱暴に叩かれる。外から同居人の声がした。開けろと言っているようだ。僕はベッドの中で読んでいた本を傍らに置き玄関へ向かった。沓脱ぎの灯りを点け扉を開けると、案の定酔っ払った同居人がふらふらと身体を揺らしながら立っていた。

「・・・なんで早く開けてくれないの」そう言いながら同居人は怒ったように扉を強く閉める。

「鍵はどうしたんですか」

「・・・無くしたわよ、そんなの」そこまで言うと、同居人は力尽きたように沓脱ぎにへたり込んだ。

「また酔っ払ってるんですか」

「・・・いいじゃない別に」

 同居人は女である。しかし恋人ではないようだ。一体どういう訳で一緒に住むようになったのかは判らないが、世の中にはそういう事もあるのかも知れない。この家の玄関を入ると廊下が真っ直ぐに伸び、突き当たりに台所と浴室とトイレが在る。そして廊下の左側に僕が住み、右側に同居人が住んだ。これ以上はないほどの同居向けの住居だ。

「今日は誰と呑んでたの」僕は同居人から鞄を受け取りながらそう訊いた。

「・・・うーん、あっちゃんとキヨ坊と・・・えーと、シマズさんとヨージ君かな」

 尋ねるまでもなくいつものメンバーだ。学生の頃の友人であったり、仕事を始めてから知り合った人であるらしい。同居人は街中の本屋に勤めていて、仕事がはねた後には必ずそのメンバーの内の誰かと食事を共にし、酒を呑んで帰って来る。そして週に二回、特に休み前の晩などは、都合のつくメンバーを全員集めて明け方まで呑んでいる。場所は居酒屋であったりクラブであったりするが、店は大体決まっているようだ。
 そういう習慣を咎め立てする気はないのだけれど、酔い方が酷いのが気になっている。今夜のように正体を無くすまで酔っている事が度々あるのだ。どうしてそんなになるまで呑むのかと、以前に一度尋ねた事がある。でも何も答えてくれなかった。傍から見れば、同居人は淡々と酔っ払いその果てに正体を無くす。まるでそれが決められた事であるかのように。そして、玄関での僕とのやりとりも、いつも同じ事の繰り返しだ。同居人が扉を叩いて僕を起こし、玄関を開け、僕がそれを咎めると鍵を無くしたと嘘を吐く。

 うなだれて、すっかり動かなくなってしまった同居人の足元に蹲り、僕は彼女のブーツを脱がせた。

「・・・此処に帰ってくるとさ」

「うん」

「・・・いつもあんたは先に寝ちゃっててさ」

「うん」

「・・・凄く淋しいじゃない」

「だったらもっと早く帰ってくればいいんだと思います」

「・・・・・・」

 僕は同居人の鞄を肩に掛け、彼女の脇の下に腕を通し、半ば持ち上げるようにして部屋まで引き摺った。

「・・・でもあんたはその時居ないかも知れないじゃない」

「そりゃあたまには」

「・・・それが嫌なのよ」

「そう」

「・・・誰も居ない家に帰るのが嫌なの」

「そっか」

 僕は彼女のコートを脱がせ、ベッドに横たえた。そして毛布をかける。戸口のスイッチに手をかけたところで振り返る。

「安心しましたか?」

「・・・うん」

「じゃあ、おやすみなさい」

 彼女からの返事はなかった。灯りを消して自室に戻り、せめてもと思い一緒に眠った。

 ★

 僕が見た夢の話はこれで終わりである。夢の話であるから、そこには何の意味もない。
  • Last modified : 2009-09-27 23:42

夢の残骸(二番目の夢)

  • 2009-09-25 金曜日
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 今度は下町の一角。幹線道路から一本中に入った道路沿いに建つ平屋造りの一軒家だが、あまり住宅のようには見えない。鼠色の瓦屋根に板壁は黒く塗られており、窓枠は鉄製でこれも黒く塗られている。一体何のために建てられた家なのか判然としない佇まいだ。玄関は鉄枠の大きな引き戸で、中に入ると大変広い沓脱ぎとなっている。右の方へと目を遣ると、板張りの床が一面に広がっていて、柱は何本か立っているが間仕切りは一枚も無く、30畳ほどの何もない寒々とした空間が在るだけである。そして左側には、奥から手洗い・浴室・台所の水回りの部屋が仕切られつつ並んでおり、最前部の空間には黒革のソファセットが置かれていた。住宅としての最低限の機能は装備されているが、住宅と呼ぶには余りにも殺風景だ。

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 辺りの静まりかえったある日の真夜中。敷地の左端に建つ丸太造りの街灯が、真っ黒なアスファルトを照らす中を三毛猫が走り抜ける。玄関左の窓からはブラインド越しに灯りが洩れている。ソファセットの置かれた辺りだ。そして、そのソファに僕は座っていた。他にも、小学校・中学校を共に通った幼馴染みの5人が、ソファにそれぞれ座り、珈琲を飲んだりウィスキーを舐めたり煙草を吸ったりしながら喋っている。中には会話に加わらずに漫画を読んでいる者も居る。

 この夢の中での僕らは30歳くらいで、それはいっぱしの大人であるはずなのに、喋っている事は中学の頃とたいして違わなかった。近所に住んでいる可愛い女の子やアイドルの噂話、嫌いな奴の悪口や、ギターの話や、バイクの話。何一つ変わっていない。彼らは一様に自営業の家に息子として生まれ、今は家業を継ぐべく昼の間は働いている。そして仕事を終え、晩飯も済ませて夜になると、申し合わせたように此処へバイクを走らせやってくる。この家の左側に細い脇道が走っており、それを半分ほど塞ぐようにして、皆はバイクを駐めている。

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 もう明け方が近い。一人また一人と連中が帰って行った後には、空き缶や呑み差したグラスと吸い殻で一杯になった灰皿が残された。

「あいつらときたら、散らかすだけ散らかして帰りやがるなー」

 僕はそれらをゴミ袋に放り込みながら愚痴をこぼす。その家にはベッドや布団の類は無く、そこを片付けないと僕は寝る事が出来ないようだ。
 ようやく片付けが終わり、僕は毛布を被ってソファに身体を横たえる。

「あいつら明日も来るかなー」

 どうやら僕は無職で毎日暇を持て余していて、幼馴染み達が遊びに来るのが待ち遠しいらしい。ブラインドの隙間から僅かな月明かりが差し込んでいる。僕はふいに思いついて半身を起こし、月明かりにうっすらと照らされる何もない家の中を見渡す。この家の半分の床を打ち抜いて、そこをガレージにしたら楽しいんじゃないだろうか。コンクリートを敷いて、壁際に工具棚を並べてもバイク5台は余裕で並べられそうだし、入口が狭ければ壁をぶち抜けば良いだろう。そうすれば連中は入れ替わり立ち替わり、空いた時間に此処へバイクを弄りに来るだろう。そんな事を想像すると僕は嬉しくて堪らない気持ちになり、その気持ちのまま毛布を引き上げ目を閉じた。

夢の残骸(最初の夢)

  • 2009-09-23 水曜日
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 殆ど夢など見ないのだけれど、週末に二度寝した時なんかに、睡眠が浅いせいか時折夢を見る。その殆どは映像の断片であり、起きたらすぐに忘れてしまう事が多いのだが、中には印象が強かったり筋道がちゃんとあったりして、後々まで覚えている夢もある。これは数週間前に見た夢の話。どうやら三度寝をやらかしたらしくて三部構成だ。一度に載せると長過ぎるので三度に分ける。先ほども書いたように夢は断片であるので、文章にする為にかなり脚色している。それに夢の中に出てくる主観としての「僕」は確かに僕だが、こうやって文章化しているとやっぱり他人なのである。

 ★

 電車が走り去るのを右手に見ながら線路沿いの道を歩く。道なりに、緩やかに左に曲がるカーブの途中に、スレートの屋根の平屋、白く塗られた板壁の、玄関と窓の造りが洋館のような古びた建物が建っている。建物の周囲には地を這うような平べったい植物が群生しており、壁には蔦が絡まっていた。左右方向のちょうど真ん中に玄関があって、上半分に格子状のガラスがはめ込んである。そしてその玄関の左右には大きめの出窓。そこにも玄関と同じようにガラスがはめ込んである。玄関の上の庇の部分には、木板の看板が掲げてあり、アルファベットで何やら屋号が彫り込まれている。何かの店のようだ。玄関や出窓のガラス越しに、棚に積まれ壁に掛けられた雑多な商品が見えているが、季節は冬のようで、結露で曇ったガラス越しではよく見て取る事が出来ない。どうやら雑貨を売る店のようではある。しかしそこで売られているものは、男である僕が求めるような商品ではなさそうだ。興味を無くした僕は店の前を素通りした。

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 別な日にその店の前を通りかかると、職人が脚立に乗って庇上の看板を取り外す作業をしていた。少し離れた場所に30歳前後の女と、40歳半ばであろう男が立っていて、作業を見上げながら話をしていた。僕は彼らから少し離れた場所に立って、何気ない素振りで煙草に火を点け、その二人の会話に耳を傾けた。

「自分のお店を持ってみたかったの」

 離れていたせいか、その言葉だけが小さく聞こえてきた。栗色の髪の毛を短く切ったその女は俯き加減に、そして淋しそうに笑っていた。男は不動産業者か何かだろうか。一言も発しなかった。商売が上手く行かず、店を手放す事になったのだろうか。恐らく彼女は自分で資金を集め、仕入れをし、販売までも独りでやっていたのだろう。取り外される看板をじっと見つめていた。そんな彼女を見ていると、僕までもが残念な気持ちで一杯になった。

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 ここで時間は遡る。なんと僕はその店の中に居た。何度も素通りして店に入った事はなかったはずなのに、おかしい事ではあるが夢なので仕方がない。

 そう広くはない店内で、20畳くらいだろうか、道路と平行に横長な空間だった。四方の壁際と中央に一列棚が置いてあり、商品が隙間無く並べてある。そして壁にも吊り棚が掛けられ、こちらも同様に商品が並べてある。色相で言えば山吹色から青。黒やその他の濃く暗い色は全くなく、柔らかで華やかな色で店内は溢れていた。素材としては布・紙・木製品が殆どを占め、色彩と素材の織りなす柔らかなグラデーションで埋め尽くされていた。店主である女は角に置いたテーブルの上で伝票を整理している。

「すみません。これ見せて貰ってもいいですか」

 僕はガラスケースに収められた、木を薄く削って作られた栞を指さした。女は伝票から顔を上げ、にっこりと微笑むと、テーブルの引き出しから鍵を取り出した。

「はい、今開けます」

 此処は、彼女の夢にまで見た空間なのだろう。そして、その夢が壊れるのはなんと淋しい事なのだろう。

秋の音のあちらかしこに鳴る夕べ

  • 2009-09-02 水曜日
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  • Tag -
月夜の招く猫の集会
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