March 2006
ふくよかに揺れる桜の色の香は
過ぎし季節の予感を放つ
映像の解体
- 2006-03-22 水曜日
- Category - Days
- Tag - diary / photograph
近所のパン屋へ続く露地の途中に、初夏の頃になると庭一杯に紫陽花を咲かせる古い民家が在る。木造の小さな門と垣根から零れるように咲き誇る色違いのグラデーションを、毎夏眺めるのが数年来の僕の密かな楽しみである。
先の土曜日。暫くの間行っていなかったパン屋へ行こうとその露地を歩いたら、紫陽花自慢の古い民家は取り壊され、新しく建てる家の為のコンクリート基礎が既に打ってあった。
僕は唖然としながら、その更地となった空間を見つめていた。もう、あの優しげな色に彩られた庭を見る事が出来ないのだ。寂しいやら、悔しいやら、である。
僕は部屋に戻り、これまでに撮ったフィルムをひっくり返し、あの民家の写真を探した。きっと残っているはずだと思ったのだ。しかしながら残ってはいなかった。よくよく思い出してみれば、その露地は狭く、どうしても庭全体を具合良く収める構図が見つからずに、毎年諦めて紫陽花に近寄って撮っていただけだったのだ。紫陽花の向こうには縁側が在り、人の気配がする時にはカメラを向ける事を躊躇する事も多かったので、十分に構図を探す事が出来なかったのだ。
失われてしまった光景というのは、どうしてこうも後悔の念を植え付けるのだろうか。勿論記憶には残っているので、思い出す事は出来る。しかし記憶でしかないのなら、自分の都合の良い解釈で描き換えられ、不必要に甘美な色が加味されてしまう。現実に質量を持つ存在の確かさと、その存在の凛々しさというようなものは思い起こす事が出来ない。
先の土曜日。暫くの間行っていなかったパン屋へ行こうとその露地を歩いたら、紫陽花自慢の古い民家は取り壊され、新しく建てる家の為のコンクリート基礎が既に打ってあった。
僕は唖然としながら、その更地となった空間を見つめていた。もう、あの優しげな色に彩られた庭を見る事が出来ないのだ。寂しいやら、悔しいやら、である。
僕は部屋に戻り、これまでに撮ったフィルムをひっくり返し、あの民家の写真を探した。きっと残っているはずだと思ったのだ。しかしながら残ってはいなかった。よくよく思い出してみれば、その露地は狭く、どうしても庭全体を具合良く収める構図が見つからずに、毎年諦めて紫陽花に近寄って撮っていただけだったのだ。紫陽花の向こうには縁側が在り、人の気配がする時にはカメラを向ける事を躊躇する事も多かったので、十分に構図を探す事が出来なかったのだ。
失われてしまった光景というのは、どうしてこうも後悔の念を植え付けるのだろうか。勿論記憶には残っているので、思い出す事は出来る。しかし記憶でしかないのなら、自分の都合の良い解釈で描き換えられ、不必要に甘美な色が加味されてしまう。現実に質量を持つ存在の確かさと、その存在の凛々しさというようなものは思い起こす事が出来ない。
雑感
理性なんて、どうやったって感情には追いつかない。
春の世は夢か現か微睡みの
縁をなぞりてゆらり舞う
憧憬
時折思う。過ぎた飲酒癖は、甘やかさを織り交ぜた自傷行為か、若しくは緩やかな自殺行為であるような気がする。干涸らびた水槽の底で、石ころを食らい続けた亀のように。
春花爛漫
- 2006-03-09 木曜日
- Category - Days
- Tag - diary / environment
春というのは、寒かったり暖かったりを交互に繰り返しながらも、確実に穏やかさを誂えていく。時折、つむじ風が吹くのも、もしかしたら膿んだ空気を一掃する為のものであるのかも知れない。寒暖の差は人を不安定にするかも知れないが、安定の無さは可能性の存在を現しているものと考えたい。季節が奥まって、陽の光が隅々に行き渡るに連れ、人々の顔が綻び、笑顔に近づいていくのが、僕はとても嬉しいのである。
春風は明日の予感孕みつつ
猫の鼻ひらくすぐり廻る
坂道
あれは確か早春の日曜日の朝。僕等は電車に乗って遠くに出かけようと、アパートから駅へと続く緩やかな坂道を歩いていた。風はまだまだ冷たくて、僕等は二人ともセーターとコートをしっかりと着込み、毛糸の帽子を目深に被っていた。けれども陽射しはとても明るくて、厳しく薄暗い季節が明けた事を僕等に教えてくれていた。
僕等は日差しの暖かさに頬を緩め、浮き立つ気持ちを抑えきれずにいた。そしてとうとう、遠くへ行きたいのなら早い時間に電車に乗ってしまわねばならない、という大前提の予定の事などすっかり忘れてしまい、誰かの家の玄関先に花を開こうとしている白い蕾や、後数年経てば朽ち果てる予定が立っていそうな家屋を古い写真機の中に収めたり、家々の隙間から隙間へと走り抜ける猫を追いかけたりして遊んでいた。
そんな僕等の眼球の裏側を目映く痛めるのは、坂道の真ん中に引かれた真っ白な線。暗いアスファルトの上に、まるで僕等を誘導するかのように引かれたセンターライン。駅へと続く道の上を、真っ直ぐに、時にカーブを描いて、街並みに隠れて見えなくなるまで走り抜けていた。
真新しい朝と、今日の為に新しく引かれた白線。行き先での心地良さを頭一杯に思い浮かべ、僕等は白線の上に立ち写真を撮った。墨色の影法師は、僅かに肩を寄せて立っていた。
- - -
このエントリ内に書かれている事は大体に於いて事実と異なります。
僕等は日差しの暖かさに頬を緩め、浮き立つ気持ちを抑えきれずにいた。そしてとうとう、遠くへ行きたいのなら早い時間に電車に乗ってしまわねばならない、という大前提の予定の事などすっかり忘れてしまい、誰かの家の玄関先に花を開こうとしている白い蕾や、後数年経てば朽ち果てる予定が立っていそうな家屋を古い写真機の中に収めたり、家々の隙間から隙間へと走り抜ける猫を追いかけたりして遊んでいた。
そんな僕等の眼球の裏側を目映く痛めるのは、坂道の真ん中に引かれた真っ白な線。暗いアスファルトの上に、まるで僕等を誘導するかのように引かれたセンターライン。駅へと続く道の上を、真っ直ぐに、時にカーブを描いて、街並みに隠れて見えなくなるまで走り抜けていた。
真新しい朝と、今日の為に新しく引かれた白線。行き先での心地良さを頭一杯に思い浮かべ、僕等は白線の上に立ち写真を撮った。墨色の影法師は、僅かに肩を寄せて立っていた。
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このエントリ内に書かれている事は大体に於いて事実と異なります。
- Last modified : 2008-10-15 22:32










