DOG ON THE BEACH
東京湾景 / 吉田 修一
長崎乱楽坂 / 吉田 修一
あれから " パーク・ライフ " をそれなりに読み、次に読んだのがコレ。長崎弁、というか九州全域で通じるであろう言葉で綴られている。そういう僕の身体にも染みついた言語で語られているせいか、描写が非常に生々しく感じる。例えば、下履き一枚姿の男達の酒宴の描写があるが、その場所ではどんな匂いがしてどんな音が聞こえてどんな温度を持っているのか、僕はまざまざと感じる事が出来る。子供の頃に見た、父や祖父や叔父やその友人達の姿が重なる。彼等の表情や肌の色、子供だった私には窺い知れない秘密めいた痴話。酒が飲めなければ一人前だと認めないと言っては、子供の僕に半ば強制的に酒を勧める大人達。挙げ句には煙草まで吸わされる。しかし僕はそれを喜んで受け入れていたような気がする。今でも嫌な思い出としては残っていない。僕はとうの昔に、今度はそれらを子供らに見せつける立場になっている訳だけれども、何だか遠い話のように感じている。僕は未だに彼等には追いついていない。それが少し悔しい。
パレード / 吉田 修一
この小説、マンションの2LDKの部屋に同居する5人の男女の物語です。各章、それぞれの視点で語られていく訳ですが、よくあるパラレルな構成ではありません。話は順番に、数珠繋ぎに進んでいきます。珍しい構成だなあ、と思いつつも今朝電車の中で読んでいる時までは、文体や会話が大変面白くて、それを楽しむように読んでいました。しかし、がしかし、それだけではなかったのです。丁度帰りの電車の中で読み終えるタイミングで、各登場人物がそれぞれの内情を吐露しつつ、何事も無かったようにこの小説は終わるんだろうなぐらいに思っていましたが、それは私の軽率な考えに過ぎませんでした。最終章の終わりに、もの凄いテンションまで持ち上げられ唐突に終わりを告げられます。そういう事だったのか! 私は最後の最後まで気付く事が出来ませんでした。良く出来た小説です。レイモンド・チャンドラーの " 長いお別れ " よりも、それまでがほのぼのとしていただけにショックが大きい。やられました。
Missing / 本多 孝好
ずっと以前から書店に平積みされ、彼方此方の書店で薦められているのは知っていましたが、やたらと薦められるとウザったく思うし、表紙のデザインが喜多嶋隆っぽいので敬遠していました。しかしとうとう一昨日くらいにイトーヨーカ堂に入っている本屋で手に取りました。此処で紹介しているのは単行本ですが、僕が買ったのは文庫本です。Amazon には文庫本の画像しか用意されていなかったので、仕方なく文庫本の情報を使用しているに過ぎません。新刊でもないのに単行本は買いませんよ。物として所有したい場合は別ですが。この本は短編集です。ミステリ仕立てなので、最後にそれぞれの事件の真相みたいなモノが主人公の口から巧妙に語られますが、これまでの古来(私が読んだミステリ物のこれまで)のミステリのように、複雑に絡む事情の糸を解きほぐすような解釈の仕方ではなく、残酷なまでに当事者の感情に迫る訳です。本当はどうしたかったのか? どうして欲しかったのか? 容赦ないです。人の持つ欲求(希求と混同した)の深淵をちょっとだけ覗き見てみたい人にはお薦め。
追記:単行本は表紙デザインは喜多嶋隆っぽくはありません。ぽいのは文庫本。
虚の王 / 馳 星周
読み終わりました。体調崩しているくせに何故こんな刺激の強い小説を読んでいるのか自分でも不思議。そういう時期なのだ、としか言いようがない。さて、この小説は渋谷を舞台にしていて、元チーマーで今は覚醒剤の売人という少年と、女子高校生売春組織を仕切る男子高校生が主軸となった物語で、それにサポート校の女性教師、その生徒のストリート雑誌のモデルの女子高生が絡んで行きます。この人物設定だけでもロクな事にならないのが想像出来てしまうという、或る意味大変分かりやすい小説です。そして予想に違わず、登場人物達は破滅に向かってひた走る訳です。嫌だろうが怖かろうが痛かろうが未来が無かろうが目の前に自分の死体がブラ下がっている気がしていようが、とにかく前へ進むしか道が無い。そういう小説です。氏の小説はだいたいそんな感じです。そういうのがお好きな方はどうぞ。読んで気分が良くなる事は有りません。ただ、妙な開放感は有ります。それはきっと、異常(と思える)な世界から視線を上げた時に、自分の身を置く世界の正常(と思える)さに、ほっと胸を撫で下ろすからなのでしょう。












