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DOG ON THE BEACH

長いお別れ

 享年95歳。死因は腸梗塞。

 父の兄弟が11人居るのは知っていたが、孫(つまり僕の従兄弟)が28人も居る事を初めて知る。下は22歳から上は46歳。その内で僕が存在を知っていたのは半分くらい。何故そんな寂しい事になっているのかというと、1971年に既に他界した祖父の遺産相続の件で父の兄弟が揉めていたからである。その話は今回もあった。勿論、孫の立場で僕がその話し合いに参加する訳はないので、詳しくは知らないが、最後には談笑していたところをみると、ある程度の妥協は成立したのだろうか。そうであって欲しい。

 親族の人数が多すぎて、別れの膳は3交代で食べた。その周りを曾孫が嬌声をあげながら走り回る。

 祖母の安眠する棺桶に、親族が皆で花を添える。曾孫は孫に抱き上げられて花を添える。叔母や従姉妹達の泣き腫らした顔をずっと見ていた。百合の花を祖母の髪の毛へ差した。美しい顔をしていた。祖母の冷たい頬に触れた時初めて、もうこの人は目を覚ます事はないのだな、と思えた。

 葬儀は浄土真宗にて行われた。本家は宗教を持っていない。元々本家の家屋が在った場所の目の前に、浄土真宗の寺が在ったからに過ぎない。祖父の時からの流れだ。

 火葬場で、祖母の棺桶が窯に送られ、分厚い鉄の扉が閉まる時が一番辛かった。
 採骨室で、皆が交代で祖母の遺骨を、箸で渡して骨壺へ入れて行く。長い間不義理をしていた罪悪感があって、率先してその中へ入って行く気になれずに、入口の扉で自分が最後になるまで待っていた。しかしそれを従姉妹に見つけられ、先に入るように即される。
 採骨を終え、骨壺が運び出されても、父と数人の従兄弟は祖母の遺骨をじっと見つめていた。そして彼等が立ち去っても尚、僕は扉の前を離れる事が出来なかった。祖母が完全に視界から消えてしまうまで見ていたかったからである。後悔を伴わなければ、祖母を思う事が出来ないとは、その文字通りに、情けない。

 通夜の後、孫数人で寝ずの番をしている時、誰が言い出したのか、暇潰しに家系図を手書きで作り始めた。孫が不確かな記憶で作っていたので曖昧な部分が多かったが、葬儀の前後で親族みんなに確認し、加筆して貰ってかなり正確な家系図が描き上がった。叔父や叔母達は非常に喜んでいた。皆は口々に「これが最後の集まり」と言っていたが、たぶん、本当はバラバラにはなりたくないのかも知れない。若い従兄弟達がどう思っているのかは判らないが、僕はこれをデータ化し、清書して配ろうと思っている。何れの日にか、何かの気休めくらいにはなるだろう。

東京下町 Night Walker - Reprise

 そう言えば、一昨日の夜歩いたのは23時近くで、その時間になるとさすがに道を歩いている人は殆ど見かけない。しかも江戸川の土手なんか誰も居ない。すぐ側の車道を車が時々走り過ぎて行くくらいである。その車道は土手のサイクリングロードよりも低い位置を走っているので、必然的に街灯も低く、微妙な高さを照らしている。

 暫くの間、南に向かって歩いていると、風に乗って何処からか女の歌声がかすかに聞こえてくる。最初、演劇部か何かの発声練習かと思ったのだが、どうも違う。声には震えるようなヴィヴラートがかかり、声量がハンパではない。声楽をやっている学生が練習でもしているのだろうか。河川敷の向こう側、つまり川の方から聞こえる。もしかしたら対岸かも知れない。想像して貰えると分かると思うが、暗闇の中からそんな声が聞こえてくると、ちょっと怖い。
 その声が気になりつつも、更に南へ歩こうとする僕の目に、一つの人影が見えた。サイクリングロードをゆっくりとこちらへ歩いてくる。だんだん近づいて来て、その人影が男だと分かった。更に近づいて、5mの距離までくると、それがイタリアかスペインか中東かインド辺りの彫りの深い顔立ちである事が見て取れた。20代の若者で、俯いたまま歩いている。足取りは重く、酷く落ち込んでいるようにも見える。先ほどの歌声は未だ途切れ途切れに聞こえている。若者はうなだれている。そしてその他には僕以外に誰も居ない。何だかもの凄い予感を含んだ場面に出くわした感じである。

 結局その後は何事も無く我々は擦れ違い、それぞれの世界の在るべき場所へ歩き進んで行ったのであった。こういう事があるので真夜中の散歩は面白い。怖いけど。

東京下町 Night Walker

  • 2004-11-04 木曜日
  • Category - Days
  • Tag -
 何もする事が無かったので歩いて来た。

 今朝は10時頃に目覚め、それから何か食べたり、メールやコメントのレスポンスを書いたり、何やら色々やっていたら、気付けばもう既に夕方だった。置いてきぼりにされた気分である。それに加えて、僕の住んでいるマンションは現在、外装の改修工事をしており、窓という窓は外側からしっかりと養生されてしまっている為に窓が開けられない。非常に閉塞感を感じる。やがて陽は落ち、辺りが暗くなってくると寂寥感さえ感じるほどだ。そんな風に部屋でじっとしているとやたらと気が滅入ってくるので、今夜観るヴィデオでも借りるついでに散歩でもして来ようと出かけた訳なのです。が、しかし、観たいヴィデオは全て無く、滅多にお目にかかれないほどの徒労感を味わい、とぼとぼと部屋に戻って来たは良いが、本当に何もする事がない。いや、探せば何かあるのだろうけれど、したい事が何も思いつかなかったのである。夜の帳は既に下ろされ、僕の行き場は何処にも無い。

 そんな鬱々とした気分で、僕は「今日は俺何やってたんだっけなあ」なんて事をぼんやり考えていると、今日は何故かしら体調が余り思わしくなく、そう言えば歩いている時が一番自分のカラダの居心地が良かった、という事に思い当たりました。なるほど。歩いていれば気分は良くなるのだ。そう考えると居ても立ってもいられなくなり、スウェットパンツを穿き、ウィンドブレーカーを被り、スニーカーを履いて、夜の町へ飛び出したのであった。

砂漠に滴る花のよう

  • 2004-11-01 月曜日
  • Category - Days
  • Tag -
 イラクの武装勢力組織に拠る日本人拉致、そして殺害。これにまつわる(周囲の)情報を知りたくなかったので、テレビも見ないし、ネットでも関連する記事は読まない事にしていました。たまたま読んだ関連する記事に、無駄に感情的なコメントを書いてしまって、その事がとても悔やまれます。そんな事を繰り返したくないし、ここのところ不安定な気分で毎日を過ごしているので、そういった負の感情に押し流されて、深淵を覗き込む事になるのが嫌だったのです。
 しかし、犠牲者の彼が、一体何を思って現地へ行ったのか。その事をつい考えてしまいます。想像を絶する暴力の空気に触れなければ、自分を確認する事が出来なかったのでしょうか。退屈だったのかも知れません。居心地が悪かったのかも知れません。日本という社会を憎んでいたのかも知れません。彼は自分という存在を持て余していたのでしょう。僕の勝手な想像に過ぎませんが、そんな風に思います。

乱れた季節

 書き忘れていましたが、先週末にオンシジウムが亡くなりました。葉は枯れ果て、根もカサカサでした。

 ここのところ、20℃を下回る日々が続いたので、我が家では既にオイルヒーターを入れていたのですが、その人工的な陽気に騙されたハイビスカスは昨日二つの蕾が花開きました。そして、ブーゲンビリアは急激に蔓を伸ばし(結構邪魔)あろう事か、今頃になって一房色付きました。そんな植物どもの姿を見ていると、いかに人間が不自然な環境で暮らしているのかが分かりますね。でも仕方ありません。僕は20℃を下回ると辛くなってくるのです。今夜は22℃あるのでヒーターは入れてませんが、今後、真冬に向かって更に20℃も気温が下がる事を考えると、少しだけ途方に暮れた気分になります。毎年の事ですが。僕は既に冬物の服を着ています。

此処は既に彼方

 浅草線に乗ると、いつもの横並びのシートではなくボックス席だった。僕は進行方向に向かって座り、暗がりを見るともなしに見ていた。浅草駅からは乗客が増え、僕の向かいの席には韓国人の女性が二人座った。何も見た瞬間に彼女達が韓国人だと判った訳ではなく、韓国語を喋っていたからだ。二人揃ってハンドバッグを手に持ち、更に雷門の紙袋を持っていた。見たことのない機種のデジカメを取りだして何やら言い合っている。一瞬だけ東京案内のガイド役を買って出ようかと思ったが、実際に僕がやったのは死んだふりだった。いや、まあ、基本的に女性と同席すると緊張するので。
 僕は目を閉じ、最近聞き慣れてきた言葉の発する音を聴いていた。何となく安心する抑揚だ。これが日本語だと嫌でも意味が頭の中に入ってくるし、英語だと中途半端に意味が過ぎるので聞こうとしてしまう。全然解らない言語だと聞き流せるので楽だ。

 浅草橋で中央線に乗り換える。僕の隣に立っていた大学生風の男三人の会話が耳に入ってくる。その中の一人は昨日も今日も明日も外せない飲み会があって、昨日の時点でどうにも金が足りなくなってきたので、昨夜午前3時頃に西東京の実家に戻り、朝一でばあちゃんの家に出向いて小遣いを貰うだけ貰ってそのまま帰ってきたそうだ。その話を聞いていると何だかムカついて来て、その黒縁の眼鏡を叩き落としてやろうかと思ったが、自分には関係のない人々にまつわる戯れ言として忘れる事にした。

 水道橋で降り、目的の風景を探す。もっと一般人には入り難い場所から見た風景だとばかり思っていたのだが、予想に反してあっさりと見つかった。聖橋の上だ。秋葉原に向かって橋の上から見下ろすと、外堀と中央線と丸ノ内線と千代田線が立体的に交差している光景を見る事が出来る。僕はこれを見る為に来たのだった。此処に来る事が目的の場所なのではなく、擦れ違う事が目的である場所。通常ならば誰も振り返らない。そんなこの場所を私は見たかった。

'Round About Midnight / Miles Davis

 このアルバムが僕が初めて手に入れた Miles Davis のアルバムである。実はつい最近になって Jazz を色々と聴くようになった。昔、それは10年くらい前だろうか、試しに Bud Powell あたりのピアノ曲を買って聴いてはみたが、全然自分の中に入って来なかった。ピアノを選んだのは、クラシックだとピアノ曲を聴く事が多かったので入り安いかと思ったのだ。しかし音楽として全く別物であったし、自分が聴く音楽ではないのだろうと、直ぐに離れてしまった。

 それから数年の後。何かのきっかけで Cuban Music を聴くようになり、それまで気にして聴いた事のなかったブラスの音に魅力を感じるようになった。それからまた数年が経ち、また試してみようかと思っているところへ、FM で 'Round midnight という曲を耳にした。それまで感じた事のないカタルシスを自分の中に見つけ、僕は次の週末には CD 屋でこのアルバムを探し当て、その日からは暫くは毎晩聴いていたように思う。今思えば、僕の Jazz への入口はこの曲であった。かと言ってそれから Jazz にハマったかというとそういう事はなく、それから暫くはこのアルバムと Kind of blue ばかり聴いていた。Miles Davis の他のアルバムを聴いたり、他のミュージシャンのアルバムを聴いたりするようになったのは、ほんのつい最近の事である。

 'Round midnight を真夜中に聴くのが好きだ。闇に溶け込るようなトランペットの音色を聴いていると、夜と一つになるような気分になれる。

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