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DOG ON THE BEACH

中央線沿線を歩く(阿佐ヶ谷〜荻窪)前編





駅を通り過ぎると、何となしに商店街が始まる。



T字路に突き当たったので、セオリー通りに線路側へ進もうかと迷ったが、右側の方が面白そうな雰囲気が在るので少しだけ進んでみる事にした。ら、一風変わった外観の建物が出現。後から調べると、これはザムザ阿佐ヶ谷という劇場であるらしい。何となく納得。



元の道へ戻って線路を越える(正確には線路の下を潜った)。少しすると再び緩やかな商店街が始まる。同じ「スターロード」という看板が在るので、一続きの商店街という解釈なのだろう。右の写真は、喫茶店のように見える店に貼ってあった。何故なのかは判らないけど、劇場も在る事からすると演劇好きな人が多く集まるのかも知れない。




更に続く緩くスターロード。垣根を覆い尽くすが如くモッサリと繁る雑草。



ま、まだまだ続くスターロード。ひっそりとしたオープンカフェ。一応ここでスターロードは終わりのようだ。



線路方向へと向かう。高架下には線路に沿って通路が設けられている。



線路を越えたところに在る人家。樹木が良い感じに威張っている。



のんびりとした道が続く。



住宅地に入った様子。えーと、稲荷神社だったかなこれ・・・。



古めの人家とマンションの間のを通り抜けると、何やら校門のような建物が見える。



果たして文化女子大付属の中・高等学校だった。

この散歩は2010年8月14日に歩いたものです。
  • 最終更新日時 : 2011-10-13 22:16:26

聖なる空き地

 小学生の頃、ある夏の早朝に、僕は近所に在る草ぼうぼうの空き地で孵化したばかりの蝉を見た。隣地の人家のブロック塀に沿って雑草が高く生い茂っていて、その雑草の一様に真っ白な蝉が止まっていた。そんなものを見たのは初めてだったので、僕はハッとして、畏れながらも目を離す事が出来なかった。見慣れた成虫のカラッとした焦げ茶の蝉とは違い、ふくよかで湿り気を帯びた白い体躯は、異様で、気味が悪く、そうでありながらも何処か神々しく僕の目に映し出された。触れてみたいという欲求は当然芽生えたが、冒しがたいその姿に僕は手を伸ばす事が出来なかった。もし手を伸ばして掴んでしまったら、握りつぶしてしまうのではないかと己を訝った。僕はそのまま其処にしゃがみ込み、小一時間その白い蝉を見つめ続けた。

 そんな事書いてるうちに一つ疑問に思ったのは、小学生の僕が何故早朝に空き地へなんか行ったのかという事。今も昔も、早起きなんて決して好きではないはずなのに、その点がどうしても解せない。

 そしてつられて思い出した事に、恐らく同じ時期に僕はその空き地に自分の宝箱を埋めていた事がある。何故そんな事をしていたのか。当時は狭い借家に家族五人で住んでいて、彼らの目に触れぬ何処かに自分の大事な物を隠す必要があったのだろうか。今となってはその宝が一体何だったのか全く思い出せないが、自分の性格を鑑みると何かしら秘密を持ちたかったのだと思われる。
 その事で記憶に残ってるのは、土砂降りの雨の日に、僕は何故かその空き地で宝箱を掘り返していた。自分の事ではあるが、何の為なのかは知らない。恐らく。自分の宝が其処に存在する事を確かめたかったのだろう。そして、それと同じ理由で、早朝を選んで宝箱の無事を確かめに行った際に白い蝉を見つけたのではないだろうか。ただの空き地に過ぎないが、自宅と小学校、そしてそれを結ぶ通学路のエリアが世界の全てであった僕にとっては、空き地は特別な場所であったのだろうと想像する。

きれいはきたない、きたないはきれい。闇と汚れの中を飛ぼう。

 昔からこの言葉を何となく知っていて、良いなぁと思っていた。そして先日、人のとの会話の中で偶然にこの言葉と邂逅する機会があったので、この際だからちゃんと読んでみるかと、岩波文庫の木下順二訳「マクベス」を買って読んでみた。しかし最後まで読み通してもこのフレーズは出てこない。何故だろうとよくよく調べてみれば、該当する部分は冒頭にこう訳されていた。
輝く光は深い闇よ、深い闇は輝く光よ、浮んで行こう、よごれた霧の中をよ。
 大まかなニュアンスとしては共通しているが、僕にとっては全然違うように読める。どちらも抽象的な対比には違いないのだけれど、そこから喚起されるイメージの領域が違う。タイトルに掲げた言葉は一体どの訳本に出てくるのか。内容はもう知ったので、それだけの為に探し求める気はさらさらないのだが。

喪失

 人の心から何かが失われると、それはそのまま人の裡に絶対的な空白を作る。そして眼差しに影を落としてしまう。注目すべきはその部分であり表層ではない。表層は舞台であり、其処では人はどんな嘘をも吐く事が出来る。舞台は華やかで、勢いもあり、潔いものであるが、角度を変えて見てみれば、何処か哀し気な色が差している。そしてその落差は、厄介な事に、とても美しく見える。

空の色は秋へ

 この二日間、僕は漠然とした後悔と罪悪感に苛まれていた。それは未だに続いていて、何かしらの答えが出る気配すらない。不思議なのは、後悔する事が在るのは何となく解るにしても、罪悪感に苛まれるというのがよく解らない。何しろそんな覚えがない。しかし確実に、罪悪感を伴ってある人の事が思い出される。きっかけが在ったとは言え、どうして今そんな思いに捕らわれなければならないのか。ようやく忘れかけていたのに。もしかしたら、忘れてはいけない事なのか。

空蝉

 昨夜遅く、ベランダへ通じるガラス戸を開けると蝉が飛び込んできた。部屋の明かりに呼ばれたのか、暫く部屋の中を飛び回った後に窓際のカーテンへしがみついた。さすがにそこで鳴かれたらとんでもなく煩いだろうなと思い、僕は指でつついて外へと追いやった。ジジッと鳴いてカーテンを離れたが、蝉はそのまま夜空へとは飛んでは行かず、ベランダの中に留まったようだ。まあ仕方がない。僕はガラス戸を閉め冷房のスイッチを入れた。

 そして今朝、ガラス戸を開けるとベランダの床に蝉が腹を見せて転がっていた。しゃがみ込んでよく見てみると、6本の脚をウヨウヨと動かしている。未だ亡骸ではない。しかしもう間近だ。今まさに命を終えんとする生き物をどうしたら良いのか暫し考えた。他の場所に移すのは何かしらに反する気がしたので、蝉はそのままにしておく事にした。僕はガラス戸を締め、鞄を持って部屋を出た。

夏の光

 横断歩道を渡るべく歩道の端に立ち、何となく目を遣った4車線の車道の向こう側。信号機の横に、義足をつけた女性が立っていた。やがて信号が青へと変わり、人々が一斉に車道を渡り出す。
 二十代半ばくらいだろうか。水色のシャツに、白いカバンを抱き、白いミニスカート、白い靴を履いて、ポニーテールに結んだ髪の毛をリズミカルに揺らしながら、動作も柔らかく、まっすぐに前を見据えながら歩いて来た。右足が金属のシャフトである事が不思議に思えるくらい、動きに違和感を覚えなかった。もっと言えば、金属の脚が必然であるような気さえしてくる。彼女は毅然と、両の脚を周囲に見せびらかし、颯爽と歩いていた。

 横断歩道の中ほどで僕は右側に進路をずらした。右手に在るコンビニへ行く為。というのは嘘で、本当はその女性と対峙するのを躊躇したからだ。それは何故か。彼女の不遇に憐憫の情を持ったのかも知れないし、強くしなやかな光を放つ、明らかな美へ対する恐れなのかも知れない。それかはたまた、クローネンバーグが撮った「クラッシュ」の中の、ロザンナ・アークエットの強制具を装着した脚の、倒錯的な美しさを思い起こしたからなのかも知れない。

 彼女は僕の3メートル先を、白いスカートを翻し、進化した人間であるが如き面持ちで、夏の光の中を歩き去って行った。
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