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DOG ON THE BEACH

食卓の器

 今年になって、それまでに使っていた食器を落として割ったり、よくよく見ればあちこち欠けていたりして、それらの買い換えを言い訳にちょこちょこと器を買い揃えていた。本来なら直接自分の眼で見て、触って、それから選びたいのだけれど、そういう店をなかなか見つけられず、見つかるのはやたらと高額な器を扱っている店か、それともなんちゃって感溢れるしゃれおつ和風な店がどちらかであった。
 世の中に出回っている器がそれらだけであるはずがないとは思ってはいたものの、どうにも手段を思い付かず、仕方がないので手っ取り早く楽天に出店している陶器を扱う店を探したのだった。

 結果として、京都の陶工を何人も抱える店を見つけ、そこで酒器と皿、丼を買った。僕は流麗な文様の入ったものは余り好きではなく、かつ肉が薄いものも余り好きではない。ただそれは、自分が日常の中で使うという前提での話だ。自分の作る料理を盛りつける事を考えていくと、どちらかと言えば地味な形や色合いの物が適当であるように思えるし、うっかりと落としたりする事を考えると肉厚な方が安心である。それに、特にグラスやぐい呑みなんかでは、唇に器を当てがった時の厚ぼったさが、飲み物に柔らかさを与え、それを含めて美味いと感じる。日常で使う器の良さというのは、そういう事ではないのかなあ、と思っている。

 そして今は沖縄の陶器が気に入っている。器に繊細さはないが、上記の条件は満たしており、何より安い。京都の店と同じように何人もの陶工を抱えた店だが、値段はおよそ半分。恐らく他の地方の伝統的な器に比べても同じようなものだろう。この値段の差はどこから来るものなのだろうか。観賞用として用いられてきた歴史が浅いのだろうか。詳しく歴史を紐解いて行けば判るのかも知れないが、その事にはさして興味も沸かないので、調べないままであるかも知れない。取りあえず今のところは、使い心地の良い器を適度な値段で手に入れる事が出来れば、それで十分なのだから。

車中にて

 先の土曜日、上野アメ屋横町で買い物をしたその帰り、京成本線電車内での事。

 早い内から車両に乗り込み座っていた僕の目の前に、発車時刻ギリギリになだれ込んできた一団があった。中年層から初老の域までの男女合わせて10人ほどの団体。折りたたみのイーゼルを入れる布袋や、絵の具・筆を収納する手提げ箱や、ホルベインのショルダーバッグを持っている人がいるところを見ると、どうやら上野公園で写生をしていた人達であろう事が伺える。
 それぞれが和気あいあいと座席に座ったり立ったりしながら、今日の陽射しの具合や、絵の具の仕入れ先の事について話したり、技術面でのアドヴァイスをしたりして過ごしている。僕の隣には派手な身なりの老年に差し掛かった女性が座り、その前には擦り切れたジーンズにフィールド・ジャケットを羽織ったの初老の男性が立った。話を聞いていると、その男性はどうやらその会の指導者か若しくは主催者であるようだった。何故ならばちょっと偉そうだったからである。

 まあそこまでは良い。普通の光景だ。しかし、どうやら連中は写生の後、知り合いのイタリア料理屋で一杯やってきたらしく、僕の目の前の男性も結構饒舌であった。そして彼は、途中から会の他のメンバーの絵にケチをつけ始めた。当日の写生会の事ではないようだが、何やら発表会をやったらしくて、その時に提出された絵をいちいち否定するのである。「あいつ、あんなへったクソな絵出しやがってさー・・・」「まあまあ見れるのは、そうだねえ、一枚くらいかな・・・」
 事実そうなのかも知れないが、指導者(若しくは主催者)が同じ会のメンバーの一人に向かって、そんな事を口にするのは凄くマズイんじゃないのかなあ。そんなに気に入らないんだったら独りで描いてりゃいいのに。そんな事を思いながら、僕は寝たふりをしていたのだけれど、再び目を開けた瞬間、その初老の男のジーンズのジッパーが全開になっている事に気付いた。
 カッコ悪い・・・。そう思うと同時に、僕はその男が不憫に思えてきた。社会の窓が全開になっている事に気付かぬまま他人の悪口を言うのは、本当に間が抜けている。僕はその事を彼に告げるべきか迷ったが、何だかツマラナイ反応が返ってきそうなので、何も言わずに寝たふりを続けた。

イサム・ノグチ展 / 東京都現代美術館

 観に行った時の事を書くのを忘れていた。

 入口から入ってすぐ、2m級の提灯が展示してあるスペースで、音声サービスのイヤフォンに耳を傾けつつ、一心に見つめている女の子が居た。他にも閲覧者は何人も居たというのに、何故かその子だけが目に入った。たぶん20歳くらい。美大だとか美術系の学生なのだろう、今の僕が属する環境では考えられない服装をしていた。ま、そんな事はどうでも良い。

 それから後も、彼方此方の展示スペースで彼女を見かける。というか目に入ってくる。そうすると、イサム・ノグチの彫刻よりも彼女ばかりを目で追ってしまうのだ。何もその女の子が凄く好みであったとかそういう事ではない。それぞれの彫刻を取り憑かれたように見つめ、彫刻から彫刻へと小動物のように渡り歩くその姿から目を離せないのである。そんなにも熱狂的に彫刻を観る人は他には誰一人居なかった。自分の気に入った物だけを集中的に観る習慣の私とは違い、彼女は何一つ見逃そうとしない。何かしら切実さを感じしてしまう。僕はこういう人を見ているのが好きである。

 展示場から出て、関係する書籍やグッズの販売スペースを彷徨いていたのだが、其処でもその女の子を見る事になる。彼女の情熱は留まる事を覚えないようで、此処でも全ての商品を吟味していた。既に手に幾つもの商品の入った袋を下げ、それでも未だ何か探そうとしている。Tシャツを選ぶのには、30分ほどかけていた。最後に彼女が買った物は、イサム・ノグチとは全く関係のない「太陽の塔」のオブジェ。包装して貰っているところを見ると、友人へのお土産か何かにするのだろう。取り敢えずそれで満足したのか、彼女は意気揚々と美術館を後にした。

 イサム・ノグチの彫刻を観に行ったというより、その女の子を観に行ったようなものであった。

妻をめとらば韓国人!? / 篠原 令

 韓国繋がりでひとつ。著者は韓国人の女性と結婚し、現在もアジアを拠点とし日本企業のコンサルティングを生業としている男性である。タイトルからすると、韓国女性とのあれやこれやを書いてあるように思える(そういう部分も勿論あるが)が、中心は韓国と日本との文化(価値観)の違いについて書かれている。韓国の人々が、子供の頃からどういう風に教えられて生きているのか、どういう価値観の社会に属して生活しているのか。そういう事を具体的な例を挙げ、日本人との比較を交えながら書いてあります。凄く判りやすい。どう判り易いかというと、物事に対する考え方がそもそも違うので、それは歳を重ねる毎に確固たるものとしてその人の中で確立されてしまう。大人になった韓国人と日本人が全く違う思考をしてしまうのは仕方がない。と、そう思えるのである。僕は海外で生活した経験が無いので、このような文書から得た情報に拠る想像でしかないのだが、各国・各地域でのそれぞれの価値観の違いというのは、余りにも(そして途方もなく)歴然としているのだろう。自分の生まれ育った環境の外で生活し続ける人は凄い。微妙にコンプレックスを持ってしまう。
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