DOG ON THE BEACH
中央線沿線を歩く(西荻窪〜吉祥寺)



駅を通り過ぎて左側の商店街というか呑み屋街を抜ける。抜けるといきなり裏通り。


なだらかな下り坂の後に上り坂。延々と高架上線路の脇を歩く。

「生産緑地地区」なる立て札が掲げられているエリアが在った。


微妙に古い造りの建物が在ったりする。

敷地境界を物ともしない植物ども。

武蔵野市との境界。

シャッター降りてるけど、店舗面積広くて良さそうなパン屋。


少し線路から離れる。木々が増え、閑静な雰囲気になってくる。吉祥寺女子高校とか。高校生のカップルが校門の近くで逢瀬を楽しんでいた。人家も多く、二階の窓からピアノの練習する音が聞こえてきたりする。


道筋ではなかったけど、取りあえず鉄塔は撮る。昼間でも灯りの点く高架下の街灯。

夜を待つ屋台車。

十二分に整備された住宅地。


この建物は何だっけな。個人的にはやり過ぎだと思う。再び線路に近づき、高架下のスーパーを眺める。

その脇でうなだれる向日葵。


線路を挟んで右を歩いたり左を歩いたり。

そろそろ吉祥寺の街だ。

到着。この日まで、この街を訪れたのは三回くらいしかなかったんだけど、これを書いてる今ではしょっちゅう来てる気がする、というか実際来てる。なので感慨深さなど微塵もない。
-
はてさて、中断時期も挟んで長々と続けた中央線沿線の旅は、取りあえずこれで終わり。偏見混じりだけど、これ以上は物質的に密度が薄くなりそうだし、先々の事を考えると止めるタイミングが掴み難いし、自宅から離れ過ぎてるし、色々とキリが無い。個人的にも整理する時期であるようなので、ここまで。
この散歩は2011年7月31日に歩いたものです。
- Last Modified : 2011-10-17
中央線沿線を歩く(荻窪〜西荻窪)



線路沿いの歩道が続く。足を踏み入れてはいないが商店街の入り口のアーチ。

測量設計会社の古いビル。昭和の香りが色濃い。

これは何だっけな。骨董品屋かな。


右側の塀に囲まれた敷地、地図にも載ってないからよく判らないのだけれど、JRの敷地なのかな。


そのまま進んでもつまらなさそうなので、実は後戻りして線路の右側に出た。荻寺光明院の入り口。中に入れるようなので門を潜るとたくさんの地蔵像が。


境内と線路の間は近隣の人々の通行路になっているようだ。何人かとすれ違った。石像や小ぶりの石塔の半ばうち捨てられた感じが侘びしい。


境内を抜けて一般道に出る。そして紆余曲折していると、殺伐としていたり閑静だったり、色々な表情がある。

再び線路を越える。この辺りから樹木が巨大化してくる。


と思っていたら、駅が近いのだろう、人家ではなくビルが増えてきた。


西荻窪駅に到着。
この散歩は2011年7月31日に歩いたものです。
- Last Modified : 2011-10-17
中央線沿線を歩く(阿佐ヶ谷〜荻窪)後編




今度は北へ進んで線路を越える。こちら側も大凡は住宅地で、良い感じに草臥れた人家が在ったり、ギンガムチェックの前掛けをした地蔵像が在ったり、不思議な体色をした象が居る公園が在ったりした。

線路に近づいて行く道。並んだ自販機の横にビール箱が重ねてあるのが良い風情。



一度近づいた道は再び線路から離れていく。線路から離れないように意識しつつ歩いていると、何だかクネクネしてしまって、気がつけば都道四号線に辿り着いた。


複雑なクランクを回り、都道を渡る。


今度は都道の裏道的な道を歩いた。すると左方に面白そうな建物が見えたので、軌道から逸れてそちらへ進んでみると、どうやらレトロなデザインを売りにしたホテル、というか旅館のようだ。


元の道に戻り、線路沿いの道を歩き、ようやく荻窪駅の到着。
この散歩は2010年8月14日に歩いたものです。
- Last Modified : 2011-10-13
中央線沿線を歩く(阿佐ヶ谷〜荻窪)前編



駅を通り過ぎると、何となしに商店街が始まる。


T字路に突き当たったので、セオリー通りに線路側へ進もうかと迷ったが、右側の方が面白そうな雰囲気が在るので少しだけ進んでみる事にした。ら、一風変わった外観の建物が出現。後から調べると、これはザムザ阿佐ヶ谷という劇場であるらしい。何となく納得。


元の道へ戻って線路を越える(正確には線路の下を潜った)。少しすると再び緩やかな商店街が始まる。同じ「スターロード」という看板が在るので、一続きの商店街という解釈なのだろう。右の写真は、喫茶店のように見える店に貼ってあった。何故なのかは判らないけど、劇場も在る事からすると演劇好きな人が多く集まるのかも知れない。


更に続く緩くスターロード。垣根を覆い尽くすが如くモッサリと繁る雑草。


ま、まだまだ続くスターロード。ひっそりとしたオープンカフェ。一応ここでスターロードは終わりのようだ。


線路方向へと向かう。高架下には線路に沿って通路が設けられている。

線路を越えたところに在る人家。樹木が良い感じに威張っている。

のんびりとした道が続く。


住宅地に入った様子。えーと、稲荷神社だったかなこれ・・・。

古めの人家とマンションの間のを通り抜けると、何やら校門のような建物が見える。

果たして文化女子大付属の中・高等学校だった。
この散歩は2010年8月14日に歩いたものです。
- Last Modified : 2011-10-13
首都脱出
2月の終わりに見た夢の話。
★
夜半過ぎ、地響きのような轟音に目を覚ました。僕は何故かその時、本郷台地の上に建つ古い旅館に泊まっており、畳敷きの部屋で布団に寝ていた。木枠の窓をビリビリと鳴らす音に驚き、飛び上がるように起き上がった僕は、窓外の燃えさかる火の海に慄然とした。高台の麓に川が流れていて、それに阻まれ火の手がこちらまで伸びる事はなさそうだったが、現実では有り得ない視力で、僕は燃えさかる火の中に何が燃えているのか見つめていた。そこには、燃えるのではなく、溶けていく人間の姿が見えた。ムンクの絵の中の人のように、人間が叫びながら溶けていた。
一体何が起きたのだろう。僕は暫し考えた。何処ぞの国の飛行機が爆撃したとは思えない。それならばもっと長く爆発音が続いたはずだ。地震も違う。大地の揺れがそれとは違った。大火のようでもない。これほどまでの火が広がるまでには何かしらの騒ぎがあって然るべきだ。地響きと共に大地が燃え始めたとしか思えない。それも地上の全てが溶けるような高温で。
考えるのに飽きて、僕は部屋から出でて廊下に出た。さすがにこの状況では旅館の中も騒然としており、他の泊まり客達が慌てふためいた様子で走り回っていた。僕はそれらの人々を避けながら廊下を当てもなく歩いた。すると、向こう側から若き日の忌野清志郎が浴衣に丹前を羽織って歩いて来た。懐に手を差し込んでてれてれと歩いている。夢の中でも彼のファンであるらしい僕は、ついつい声をかけてしまった。
「キヨシローさん、どうしたんですか」
「いや、ちょっと部屋に」
「部屋に?」
「そう、ギター持ってこようかと思って」
既に彼の部屋の前だったようで、引き戸を開けて部屋に入っていった。そして直ぐさま彼はギブソンのハミングバードを抱えて出て来た。そのままふらふらと歩いて行く彼に僕も追従した。
僕らが泊まっていたのは旅館の二階で、長い廊下の突き当たりに出窓がある。彼は両開きの窓を開け放ち、そこに腰掛けた。窓の外では相変わらず大地が燃えている。彼は暫くの間言葉もなくその光景を見つめていたが、ふいに弦を爪弾き歌い始めた。僕の聴いた事のないバラードだった。それに、この状況にまったくそぐわない。彼は一頻り歌った後、窓を閉め少しばつの悪そうな顔で微笑んだ。
「もう寝ようぜ」
「危なくないですかね」
「うん、こっちまで火は来ないだろうしさ、逃げるにしたって周りは全部火事だよ」
「逃げようないですよね」
「そうそう、だから寝るんだ」
「そうですね」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
僕は部屋に戻り、窓硝子とカーテンの向こうの、赤く揺れる光を感じながら布団に潜り込んだ。
-
翌朝目を覚ますと、部屋の中に薄く煙が漂っていた。僕は取りあえず部屋を出て、階段を降り、待合室を覗いて見た。廊下を誰も歩いては居ないし、待合室にも誰も居なかった。ただ、テーブルの上の灰皿が端に寄っていたり、塵くずのようなものが散らばっているところみると、誰かが慌ててこの場所から立ち去った事が伺える。
僕は待合室を出て廊下を歩いた。帳場、浴場、食堂、それから二階の客間。隈無く歩いてみたが誰も居なかった。僕が寝ている間に皆逃げてしまったようだ。これ以上この旅館に留まっていても仕方がないので、僕は自室へ戻り荷物を纏め持った。
開け放たれた玄関を出ると、そこにキヨシローさんが佇んでいた。
「眠れた?」
「はい、少し暑かったんですけどね」
「見てみなよ。そこら中が焼け野原だよ」
「ホントですね」
高台から見下ろせる、かつては町であった大地は見渡す限り真っ黒に燻っていた。しかしずっと先の方、新宿や池袋の高層ビル群は崩れ落ちる事なく、銀色に輝いている。
「これじゃ地下鉄なんか動いてないでしょうね」
「うん」
「どうするんですか」
「家族が心配だから三鷹に帰るよ」
「歩いてですか」
「しょーがないよね」
「そうですよね」
「キミはどーすんの?」
「うーん、都心に残っているのは危なそうだから、取りあえず上野まで行ってみます。もしかしたら列車が動いてるかも知れないし」
「そーか、オレも池袋か新宿の駅に寄ってみようかな」
「その方が良いですよ。キヨシローさんギターあるし」
「そうだね」
「じゃあ、行きましょうか」
「うん、元気でね」
「はい、お元気で」
春日通りを、キヨシローさんは手を振りながら右へ。僕は左へと曲がった。
-
上野駅まではそう遠くはない。真っ黒に焦げた街を横目に春日通りを東へと歩く。崩壊した建物と、道路を塞ぐように放置された自動車、そして炭と化した人間の遺体。この辺りになると生きている人間の姿がちらほら見受けられた。何処かへ向かって歩いている人。瓦礫の中から何かを掘り起こそうとしている人。ただ泣き叫んでいる人。いろいろだ。
程なくして上野駅に着いた。駅舎は部分的に崩れ落ちてはいたが、機能しているようだ。外壁の時計は動いていた。構内には人がごった返している。皆一様に大きな荷物を背負い、先を急いでいるようだ。しかし怒号が聞こえる事もなかったし、泣き叫んでいる人も居ない。皆押し黙って、整然と改札へと吸い込まれていく。
僕は取りあえず日本海側へ抜けるまでの切符を買った。当てなど何もなかったが、出来るだけこの場所から離れたいと思ったからだ。改札を抜けて、僕はホームへ降りた。驚いた事にディーゼル機関車が停車している。僕はホームをずんずん進み、牽引車のすぐ後ろの車両へ乗り込んだ。既に満席に近く、僕は空いていた席に身体を押し込んで、バッグを抱えた。暫くして列車は動きだし、僕は他の乗客や車窓からの景色を眺めていたのだが、その内に寝てしまった。
-
乗客が席を立つ物音で目を覚ました。皆それぞれに荷物を抱え出口に向かっている。この列車はどうやら此処で終点のようだ。僕は他の乗客に習って列車から降りた。
ホームなどは無く、そのままコンクリートを打った地面へと降り立った。見渡すと其処は検車区であるかのように、敷地に何本もの列車が停車していて、周囲を山に囲まれた盆地だった。そもそも駅なんかではないようで、駅舎は見当たらず、離れた場所に事務棟のような二階建ての古い建築物が建っていた。此処が一体何処なのか見当もつかなかった。長野か、それともまだ埼玉なのか。列車を下ろされてもどうする事も出来ないじゃないか。
仕方なく、前を歩く人々の後について歩いていると、突然横から現れた女に呼び止められた。アジア人の顔つきで、肌が白くアタマは金髪。赤と白に縫い分けられたジャンプスーツを着ていた。
「あなたはこちらの列車に乗り換えてください」
「僕・・・ですか?」
「そうです」
「ええと、あなたは僕の事を知ってる?」
「勿論です」
それ以上尋ねる事も思い浮かばないし、行く当てもないので、僕はその女について行く事にした。最後尾の車両を見せて停まっている列車が数本在り、僕らはその中の一本に近付いて行った。
-
そこかしこに大昔の憲兵のような詰め襟の制服を着た男達が立っている。デザインはクラシカルだが、素材が現代の物であるようだ。薄い灰色に白い刺繍が施されている。大体は脛にゲートルを巻いた若い青年達だが、中には長靴を履いた上官らしき男が混じっている。彼らは乗客の持ち物を調べたり、帯剣や肩に担いだライフル銃に軽く手を当てたまま周囲に注意を向けている。
僕らは比較的新しい車両に乗り込み、予め決まっていたであろう座席に座った。
-
僕と女は、ボックス席に向かい合わせに座って支給された弁当を食べている。鮭と煮物と白米だけの簡素な物だった。それを食べ終え、缶入りの緑茶を飲みながら、僕はぼんやりと車窓の外の風景を眺めていた。内陸部の退屈な、田畑や森林の多い風景。散在する人家や電信柱が目の前を飛び去って行く。
広大な平野を走り抜け、列車はトンネルへ入った。窓硝子に映る自分の姿を見て驚いた。僕は詰め襟の制服を着ていた。さっきの駅に居た憲兵達と同じ軍だ。一体いつ着替えたのだろう。全く記憶にない。
「あなたはこれから、その服で過ごして貰います」
「ずっと?」
「はい、役目を終えるまではずっとです」
「その役目って何でしょうか?」
「・・・それは目的地に着いたら解ります」
「それまでは教えられないって事ですか?」
「まあ、そういう事になりますね。とにかくそれまではゆっくりしていて下さい」
考えても無駄な気がしたので、僕は少し眠る事にした。
-
目を覚ますと車窓には、透明度の高い青々とした雲一つ無い空と、太陽光を反射する緑色の山々が遠くで大地を取り囲んでいた。そして上体をかがめて上空を見上げると、そこには驚くべき事に巨大な建造物が浮かんでいた。空を覆うようなその建造物は、銀色に輝く金属で造られた十二角形の立体に放射状に金色で装飾が施されている。そしてそれが、何本もの丸太のようなケーブルで地上に繋がれており、見廻せば、他にも同じような建造物が何基も空に浮かんでいた。音も無く、光を遮るのではなく反射しながら、今まで見た事もないような威圧感を持って浮かんでいた。
「あ・・・あれは?」
「あなたがこれから生きていく場所です」
「場所?」
「施設・・・のようなものでしょうか」
「よく解らない」
「あなたはあそこに住んで、働くのです」
「何の為に?」
「行けば解ります」
「またそれ」
「ええ、まあ」
僕は驚きと共に、これから僕の身に起こるであろう事を考えてみようと試みたが、全く想像が出来なかった。何故僕が選ばれたのかもよく解らないし、一体何の為の施設なのかが判らない。この国のものなんだろうけれど、非常に軍事的なものであるように思える。とは言え自衛隊とは全く趣きが異なるので、もしかすると国民の殆どがその存在すら知らない国家機能が、今僕の目の前に在るという事なのかも知れない。
一体何なのだろうか。昨晩の、一夜にして東京の街が燃えてしまった事と関係があるのだろうか。そして、何故僕なのだろうか。その後暫くの間、呆然としたまま、空に浮かぶ建造物を眺めていた僕は、列車の汽笛に呼び起こされた。
★
という夢を、震災の半月前に見ていたのですよ。何の因果か知らないけれど。
★
夜半過ぎ、地響きのような轟音に目を覚ました。僕は何故かその時、本郷台地の上に建つ古い旅館に泊まっており、畳敷きの部屋で布団に寝ていた。木枠の窓をビリビリと鳴らす音に驚き、飛び上がるように起き上がった僕は、窓外の燃えさかる火の海に慄然とした。高台の麓に川が流れていて、それに阻まれ火の手がこちらまで伸びる事はなさそうだったが、現実では有り得ない視力で、僕は燃えさかる火の中に何が燃えているのか見つめていた。そこには、燃えるのではなく、溶けていく人間の姿が見えた。ムンクの絵の中の人のように、人間が叫びながら溶けていた。
一体何が起きたのだろう。僕は暫し考えた。何処ぞの国の飛行機が爆撃したとは思えない。それならばもっと長く爆発音が続いたはずだ。地震も違う。大地の揺れがそれとは違った。大火のようでもない。これほどまでの火が広がるまでには何かしらの騒ぎがあって然るべきだ。地響きと共に大地が燃え始めたとしか思えない。それも地上の全てが溶けるような高温で。
考えるのに飽きて、僕は部屋から出でて廊下に出た。さすがにこの状況では旅館の中も騒然としており、他の泊まり客達が慌てふためいた様子で走り回っていた。僕はそれらの人々を避けながら廊下を当てもなく歩いた。すると、向こう側から若き日の忌野清志郎が浴衣に丹前を羽織って歩いて来た。懐に手を差し込んでてれてれと歩いている。夢の中でも彼のファンであるらしい僕は、ついつい声をかけてしまった。
「キヨシローさん、どうしたんですか」
「いや、ちょっと部屋に」
「部屋に?」
「そう、ギター持ってこようかと思って」
既に彼の部屋の前だったようで、引き戸を開けて部屋に入っていった。そして直ぐさま彼はギブソンのハミングバードを抱えて出て来た。そのままふらふらと歩いて行く彼に僕も追従した。
僕らが泊まっていたのは旅館の二階で、長い廊下の突き当たりに出窓がある。彼は両開きの窓を開け放ち、そこに腰掛けた。窓の外では相変わらず大地が燃えている。彼は暫くの間言葉もなくその光景を見つめていたが、ふいに弦を爪弾き歌い始めた。僕の聴いた事のないバラードだった。それに、この状況にまったくそぐわない。彼は一頻り歌った後、窓を閉め少しばつの悪そうな顔で微笑んだ。
「もう寝ようぜ」
「危なくないですかね」
「うん、こっちまで火は来ないだろうしさ、逃げるにしたって周りは全部火事だよ」
「逃げようないですよね」
「そうそう、だから寝るんだ」
「そうですね」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
僕は部屋に戻り、窓硝子とカーテンの向こうの、赤く揺れる光を感じながら布団に潜り込んだ。
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翌朝目を覚ますと、部屋の中に薄く煙が漂っていた。僕は取りあえず部屋を出て、階段を降り、待合室を覗いて見た。廊下を誰も歩いては居ないし、待合室にも誰も居なかった。ただ、テーブルの上の灰皿が端に寄っていたり、塵くずのようなものが散らばっているところみると、誰かが慌ててこの場所から立ち去った事が伺える。
僕は待合室を出て廊下を歩いた。帳場、浴場、食堂、それから二階の客間。隈無く歩いてみたが誰も居なかった。僕が寝ている間に皆逃げてしまったようだ。これ以上この旅館に留まっていても仕方がないので、僕は自室へ戻り荷物を纏め持った。
開け放たれた玄関を出ると、そこにキヨシローさんが佇んでいた。
「眠れた?」
「はい、少し暑かったんですけどね」
「見てみなよ。そこら中が焼け野原だよ」
「ホントですね」
高台から見下ろせる、かつては町であった大地は見渡す限り真っ黒に燻っていた。しかしずっと先の方、新宿や池袋の高層ビル群は崩れ落ちる事なく、銀色に輝いている。
「これじゃ地下鉄なんか動いてないでしょうね」
「うん」
「どうするんですか」
「家族が心配だから三鷹に帰るよ」
「歩いてですか」
「しょーがないよね」
「そうですよね」
「キミはどーすんの?」
「うーん、都心に残っているのは危なそうだから、取りあえず上野まで行ってみます。もしかしたら列車が動いてるかも知れないし」
「そーか、オレも池袋か新宿の駅に寄ってみようかな」
「その方が良いですよ。キヨシローさんギターあるし」
「そうだね」
「じゃあ、行きましょうか」
「うん、元気でね」
「はい、お元気で」
春日通りを、キヨシローさんは手を振りながら右へ。僕は左へと曲がった。
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上野駅まではそう遠くはない。真っ黒に焦げた街を横目に春日通りを東へと歩く。崩壊した建物と、道路を塞ぐように放置された自動車、そして炭と化した人間の遺体。この辺りになると生きている人間の姿がちらほら見受けられた。何処かへ向かって歩いている人。瓦礫の中から何かを掘り起こそうとしている人。ただ泣き叫んでいる人。いろいろだ。
程なくして上野駅に着いた。駅舎は部分的に崩れ落ちてはいたが、機能しているようだ。外壁の時計は動いていた。構内には人がごった返している。皆一様に大きな荷物を背負い、先を急いでいるようだ。しかし怒号が聞こえる事もなかったし、泣き叫んでいる人も居ない。皆押し黙って、整然と改札へと吸い込まれていく。
僕は取りあえず日本海側へ抜けるまでの切符を買った。当てなど何もなかったが、出来るだけこの場所から離れたいと思ったからだ。改札を抜けて、僕はホームへ降りた。驚いた事にディーゼル機関車が停車している。僕はホームをずんずん進み、牽引車のすぐ後ろの車両へ乗り込んだ。既に満席に近く、僕は空いていた席に身体を押し込んで、バッグを抱えた。暫くして列車は動きだし、僕は他の乗客や車窓からの景色を眺めていたのだが、その内に寝てしまった。
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乗客が席を立つ物音で目を覚ました。皆それぞれに荷物を抱え出口に向かっている。この列車はどうやら此処で終点のようだ。僕は他の乗客に習って列車から降りた。
ホームなどは無く、そのままコンクリートを打った地面へと降り立った。見渡すと其処は検車区であるかのように、敷地に何本もの列車が停車していて、周囲を山に囲まれた盆地だった。そもそも駅なんかではないようで、駅舎は見当たらず、離れた場所に事務棟のような二階建ての古い建築物が建っていた。此処が一体何処なのか見当もつかなかった。長野か、それともまだ埼玉なのか。列車を下ろされてもどうする事も出来ないじゃないか。
仕方なく、前を歩く人々の後について歩いていると、突然横から現れた女に呼び止められた。アジア人の顔つきで、肌が白くアタマは金髪。赤と白に縫い分けられたジャンプスーツを着ていた。
「あなたはこちらの列車に乗り換えてください」
「僕・・・ですか?」
「そうです」
「ええと、あなたは僕の事を知ってる?」
「勿論です」
それ以上尋ねる事も思い浮かばないし、行く当てもないので、僕はその女について行く事にした。最後尾の車両を見せて停まっている列車が数本在り、僕らはその中の一本に近付いて行った。
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そこかしこに大昔の憲兵のような詰め襟の制服を着た男達が立っている。デザインはクラシカルだが、素材が現代の物であるようだ。薄い灰色に白い刺繍が施されている。大体は脛にゲートルを巻いた若い青年達だが、中には長靴を履いた上官らしき男が混じっている。彼らは乗客の持ち物を調べたり、帯剣や肩に担いだライフル銃に軽く手を当てたまま周囲に注意を向けている。
僕らは比較的新しい車両に乗り込み、予め決まっていたであろう座席に座った。
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僕と女は、ボックス席に向かい合わせに座って支給された弁当を食べている。鮭と煮物と白米だけの簡素な物だった。それを食べ終え、缶入りの緑茶を飲みながら、僕はぼんやりと車窓の外の風景を眺めていた。内陸部の退屈な、田畑や森林の多い風景。散在する人家や電信柱が目の前を飛び去って行く。
広大な平野を走り抜け、列車はトンネルへ入った。窓硝子に映る自分の姿を見て驚いた。僕は詰め襟の制服を着ていた。さっきの駅に居た憲兵達と同じ軍だ。一体いつ着替えたのだろう。全く記憶にない。
「あなたはこれから、その服で過ごして貰います」
「ずっと?」
「はい、役目を終えるまではずっとです」
「その役目って何でしょうか?」
「・・・それは目的地に着いたら解ります」
「それまでは教えられないって事ですか?」
「まあ、そういう事になりますね。とにかくそれまではゆっくりしていて下さい」
考えても無駄な気がしたので、僕は少し眠る事にした。
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目を覚ますと車窓には、透明度の高い青々とした雲一つ無い空と、太陽光を反射する緑色の山々が遠くで大地を取り囲んでいた。そして上体をかがめて上空を見上げると、そこには驚くべき事に巨大な建造物が浮かんでいた。空を覆うようなその建造物は、銀色に輝く金属で造られた十二角形の立体に放射状に金色で装飾が施されている。そしてそれが、何本もの丸太のようなケーブルで地上に繋がれており、見廻せば、他にも同じような建造物が何基も空に浮かんでいた。音も無く、光を遮るのではなく反射しながら、今まで見た事もないような威圧感を持って浮かんでいた。
「あ・・・あれは?」
「あなたがこれから生きていく場所です」
「場所?」
「施設・・・のようなものでしょうか」
「よく解らない」
「あなたはあそこに住んで、働くのです」
「何の為に?」
「行けば解ります」
「またそれ」
「ええ、まあ」
僕は驚きと共に、これから僕の身に起こるであろう事を考えてみようと試みたが、全く想像が出来なかった。何故僕が選ばれたのかもよく解らないし、一体何の為の施設なのかが判らない。この国のものなんだろうけれど、非常に軍事的なものであるように思える。とは言え自衛隊とは全く趣きが異なるので、もしかすると国民の殆どがその存在すら知らない国家機能が、今僕の目の前に在るという事なのかも知れない。
一体何なのだろうか。昨晩の、一夜にして東京の街が燃えてしまった事と関係があるのだろうか。そして、何故僕なのだろうか。その後暫くの間、呆然としたまま、空に浮かぶ建造物を眺めていた僕は、列車の汽笛に呼び起こされた。
★
という夢を、震災の半月前に見ていたのですよ。何の因果か知らないけれど。
中央線沿線を歩く(高円寺〜阿佐ヶ谷)後編


通路の抜け出たとこに在った、やたらと植物を茂らせた人家。





ここら辺りから僕は迷走し始める。走ってはいないけど。いつものように線路に出来るだけ近い道を選んで歩いているはずなのだが、何故かしら線路とは反対に行こうとする道ばかりで、段々とイライラしてきた。因みに下から二番目の写真はおいちゃんの記念写真を撮った訳ではない。後から場所を確認用の為にとプール施設を撮ろうとしていたのだが、おいちゃんがずっとこちらを見ているので、仕方なくそのまま撮っただけである。


やっと線路の傍まで戻ってきた。人通りなんて余り無いような気がするんだけど、洒落たブティックみたいな店が並んでいた。

かと思えば半ば廃墟と化した人家などが在ったりする。

ガード下なのに二階部分に在るドラッグストア。駐輪場があるから結構人通りはあるのかな。

フツーの寂れた商店街になってきた。

それを抜けると大通りに出て、駅舎が現れた。

到着。この後少しだけ駅の周りを歩いてみた。この駅は初めて降りたのだけれど、小洒落たものと生活感溢れるものが同居していて居心地良さそうだし、とても気に入った。スーパーも在るし商店街も在る。生活に必要なものは全て在りそうだ。たぶんこの街に住んでいたら、この街だけで生活してしまいそうである。
この散歩は8月14日に歩いたものです。
中央線沿線を歩く(高円寺〜阿佐ヶ谷)前編


高円寺駅北口の左側の隅、中通り商店街へと進む。

ご覧の通り、商店街の入口付近には古本屋や風俗店や居酒屋や古着屋など雑多な店が建ち並んでいる。今回は歩いていないが、この通りのずっと先の辺りに、昔友人が住んでいた。

ちょぃと横道を覗いてみる。狭い路地だが、盛っているからこそこの自販機の数である。

この光景はとても気に入っている。うらぶれた裏通りに若者向けの店がこっそり入り込んでいる。大袈裟かも知れないが、人間の生命力のようなものを感じる。

外壁が板張りの古い人家。二階の部屋に住みたい。


まあ、単に佇まいが気に入っただけ。

この街には小振りだが何本が鉄塔が建っている。街中で眺める鉄塔もなかなか良い。

古い医院。診療項目にしてもそうだが「皮膚」を「皮フ」とするところなんか、絶妙な感じ。

高架下を潜って出たところ。これも商店街なのだろうか。ごたごたした感じが素晴らしい。

そしてその商店街らしき通りはすぐに行き止まり、再び高架下を潜ろうとすると、線路の真下に通路を見つけた。人通りも結構ある。この辺りは道が縦横に入り組んでいてよく判らない。もしかすると近道的なものが公の道になってしまったのだろうか。僕はこの道を選んだ。
この散歩は8月14日に歩いたものです。






