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DOG ON THE BEACH

床屋とサンデーソングブック

 近所の床屋に通うようになって随分経つ。その床屋は基本的に主人夫婦で営んでいて、何年か毎に入れ替わるインターンがそれに加わる。ずっと前は先代の爺さんが昔馴染みの客が訪れた場合のみ鋏を握っていたが、何年か前に完全に引退した。余りにも長い間通い続けていると、この店の推移までも見て取れるので、妙に感慨深い気持ちになったりもする。

 この店は自宅が併設されており、そのどちらも二階建てである。つまり店の二階にも散髪台が在る。そしてこの空間がとても気持ち良くて、それ目当てで通っていると言っても言い過ぎではない。道路に面した大きな窓からは惜しみない陽光が入り部屋を満たす。そしてどの季節に訪れても絶妙な空調が客をもてなしてくれる。一体どうすればそんなにも心地良い設定が出来るのか不思議に思えるくらいだ。空気がとても柔らかく、まるで微睡みの為に作られたかのようだ。
 そして更には、店内にはいつも東京FMが流れていて、僕は日曜の午後に訪れる事が多いせいか、山下達郎のサンデーソングブックがよく流れている。これがまたとても具合が良くて、もともとFMの音は柔らかくて好きなのだが、放送する音源自体を山下達郎が拘ってリマスターしている(具体的にどうとかは解らない)からか、耳心地の良いオールディーズが開放的な気分にさせてくれるのである。正に日曜日。幸いな事に主人は無駄に話しかけてこないので、思う様この状況を満喫出来る。

 髪の毛を洗って貰ったり切って貰ったりする環境としてこれ以上はないような気がしている。だからこそ僕はこの店にずっと通い続けているのだし、これからも通い続けるだろう。こういう自分の身体に直接触れるような場所では、ほんの少しでも不快な要素があると自然と遠のいてしまうものだ。その要素が見当たらないのだから、自分の生活の中に変わることなく残しておきたいのである。

サンダル履きのサザンオールスターズ

 僕が小学生の頃、夜のテレビの歌番組にメンバー全員がランニングシャツにジョギングパンツという出で立ちで登場したサザンオールスターズ。「勝手にシンドバッド」が僕は大好きだった。それから数年後の1980年代初頭の紅白歌合戦で、髪の毛を七色に染め分けた桑田佳祐が「匂艶 THE NIGHT CLUB」を歌っていたのを覚えている。
 そんな風に、普通にテレビやラジオから流れてくるサザンオールスターズを聴き続けていたのだけれど、中学も終わり頃になると(サザンオールスターズに限らず)歌謡曲というものを聴かなくなった。勿論ラジオ等で流れてくるものは耳にはしていたのだけれど、レコードを買ったり好き好んでは聴かなかった。それから更に数年が経ち大学に通う頃には邦楽すら聴かなくなった。恐らく自分の身にまとわりつく過去からの全てのものを否定したかったのだろう。

 それから随分と時間が経ち、上京して働き始めた或る夏の日の事。その日は休日で、遅い時間に起き出した僕は、底をついていた洗剤を買おうと近所のディスカウントの薬局へとサンダルを引き摺った。草木も屋根もうなだれるような強い陽射しの中、店先に並べられたティッシュペーパーの箱やシャンプーやリンスのボトルが晒されていた。濃い影が潜む店内からはFM放送が聞こえてくる。流れているのはサザンオールスターズの「恋はお熱く」。その時の気温と陽射し、店構えの緩さにとても合っていた。その頃の僕が一体どういう心持ちで生きていたのかまるで覚えていないが、たっぷりと一曲聴き終えるまで僕は動かなかった。
 それとは別に、嗚呼こういう時にサザンを聴くと良いんだなと思った事を覚えている。それから暫くした後に、僕は中古屋で「バラッド」「バラッド2」を買った。自分が聴いて心地良く感じた音楽を、如何なる理由であろうと否定しない事にしようと思ったのだ。

 因みに僕は個人的な記憶と音楽が結びつくという事が殆どないのだけれど、長い年月を経て聴くともなく聴いていた夏の歌は、漠然とした感傷と繋がっている気がしている。

ひとり股旅スペシャル@広島市民球場 / 奥田 民生

 去年の10月30日に、広島市民球場にて行われた一人ライヴの映像。奥田がグランドに足を踏み入れて登場するところから、最後にグランドを後にするまでのノーカット編集である。セカンドベース上に設けられた小さなステージ上には奥田一人だけ。アコースティック・ギターが数本とアンプ、マイク、譜面台が四方を巡るようにセットされている。広島市民球場の収容人員は3万2000人。奥田はたった一人でその視線を受け止める。

 一人で演る事になったのは、バンドで演ると球場の騒音問題をクリア出来ないとの理由であるらしいが、結果はそれで良かったのかも知れない。観客が待ち望んでいるのは奥田の声である。アンコールで巻き起こったウェーヴは、たった一人の声を聴きたいが為に存在した。これまで数々のスポーツ競技試合での観客席で起こったウェーヴは目にしていたが、これほどまでに美しいものだとは思っていなかった。勿論それはカメラワークの違いでもあるのだけれど。

 環状に組まれた巨大なプールを波は周回し、回を重ねる毎に観客の感情を吸い上げ、高めて行く。照れながら登場した奥田の顔には、照明塔からの容赦ない量の光が降りかかる。向こう側に見える盛秋の夜空は、何もかも吸い込んで行く。

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