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DOG ON THE BEACH

今生の別れ、その言葉たるや

 今放映中の " JIN -仁- " の第五話のラストにこういう場面があった。梅毒を患い末期の症状に苦しむ女郎を救おうと、江戸時代にタイムスリップした現代の医者が、当時には存在しえないペニシリンを用いて治療を施す。しかしペニシリンの精製が間に合わず、とうとう患者は最期を迎える。そして今際の際に女郎はこう呟いて、手を合わせたまま息を引き取るのである。
みなさま・・・ありがとう。けんど・・・苦しむことにも飽きなんした。堪忍しておくれなんし。・・・おさらばえ。
 凄く印象に残る場面であったので少し検索してみたところ、同じように思う人はたくさん居るようで、数多くの記事がヒットした。特に「おさらばえ」の言葉が反響を呼んでいるようだ。僕にしても、なんと美しく響く言葉だろうかと打ち震えた。言葉を分解してみれば「それならば・それでは」という意味の「然らば」の頭に「御」を付け足し、尾に女性言葉の「え」を付け足した単純な言葉であるのだが、導き出される情感は果てしがない。
 どうしてこんなにも美しい言葉が日本の社会から失われてしまったのだろうか。いろいろ調べてみると、どうもこの言葉は武家若しくは郭の女性が主に使っていたようで、時期を異にすれどもどちらも解体された階級若しくは職場であるので、そのタイミングで失われたのだろうか。惜しい事です。情感溢れる古の言葉は、近代化や合理化に馴染む事が出来ずに風化してしまったのかも知れません。そしてそれと共にある種の美しさをも失ってしまったように思える。

 挨拶というのは大変美しいものだと思うのだけれど、それをしない人もたくさん居る。他人の事情は想像を以てしても知る事はできないが、挨拶なくして一体何時、好意や感謝を伝える事が出来るのだろうか、とも考えるのである。
  • Last Modified : 2009-12-04

ちゃんちゃらおかP音頭

 今朝電車の中でふいに思い出されたこの歌のサビ。何の歌だっけ。誰が歌ってたんだっけ。思い出そうとする間ずっと僕の頭の中では「ちゃんちゃーら、ちゃんちゃーら、ちゃんちゃーら、おかピー!」と誰かが歌い続けている。つい口ずさみそうになるのを堪えながら考え続ける。するとサンプラザ中野の顔がうっすらと浮かんできた。という事は歌っていたのは爆風スランプか。電車の中で思い出せたのはここまで。

 ネットで調べてみると僕と同じようにふと思い出してしまう人が何人かいるようだ。
 今日、会社で突然この曲を思い出したんです。誰の曲か全く思い出せなくって、他の人に聞いてもだーれも分からずじまい。ただこのメロディだけが帰りの電車の中でもぐるぐるしてました。そう、これは爆風スランプのサンプラザ中野がオールナイトニッポンの番組の中で「こぼうず隊」として出した音頭なのでした。
ちゃんちゃらおかP音頭 - 関心空間
 Wikipedia にはこうある。
 1985年9月には、爆風スランプが「こぼうず隊」と名義を変えて歌った「ちゃんちゃらおかP音頭」の歌詞をリスナーから募集している(同時に、その替え歌も募集していた)。ちなみに「おかP」という言葉は現代用語の基礎知識にも載った事があるという。
サンプラザ中野のオールナイトニッポン - Wikipedia
 1985年か。高校の頃だけど、僕はサンプラザ中野のオールナイトニッポンは聴いてなかったしなあ。何故知っているのだろう。恐らく同じクラスの誰かが、教室で繰り返し真似て歌うのを聴いていたのだろう。そんな気がする。



 表示される絵は全く関係ないと思うが、これがオリジナルバージョン。そしてなんとファイテンション☆テレビというテレビ東京系の番組で24年振りにリメイクされたらしい。歌っているのは改名後のサンプラザ中野くん。



 キャラクターがとても可愛いく、振り真似したくなる。今更だけど、流行らないかな、これ。

 ちゃんちゃーら、ちゃんちゃーら、ちゃんちゃーら、おかピー! ・・・「ピー!」の部分がとても良い。
  • Last Modified : 2009-05-22

田原坂

 およそ20年前の、確か夏。僕は福岡から民営化されたばかりのJR九州の列車に乗って、当時好きだった1歳年上の女の子に会う為に熊本へ行った。とこう書くと、当然僕は一人で列車の座席にぽつねんと座っている姿を想像するであろうが、実際には連れが居たのである。しかも女の子。彼女達は仕事場の同僚であり、僕の好きな女の子は社員で、連れの女の子はバイト。店が福岡から撤退し熊本に移ったので「半年ぶりに会いに行こうよ。」という誘いに迂闊に乗ってしまった訳である。
 そう。今思えば何と間の抜けた事をしたものだと思う。その二人連れで会いに行けばどう思われるか判りそうなものだが、当時の僕はそれが判らなかったのだ。童貞とは実に愚かな生き物である。いやまあ、そんな事はどうでも・・・良くはないが今回の話には余り関係がない。

 好きな女の子の顔を久しぶりに見て、その後熊本新市街で散々遊んだ挙げ句、終電ぎりぎりの福岡行きの列車に乗る。その復路での事。密度の高い肥後の夜を、線路を軋ませながら走る列車はやがて田原坂駅に停車した。無人駅のホームを照らす照明以外は全くの闇で、轟音にも近い虫の声が僕の鼓膜にまとわりついた。そこが西南戦争時の古戦場である事を僕は知っていたと記憶するのだが、歴史に疎い僕がそんな事に興味を持っていたとは思えないので、その場での連れの女の子が教えてくれたのだろうと思う。
 圧倒的な闇と虫の声に取り囲まれた無人駅。列車内の明かりの中とホームを照らす明かりの下は、どうにか許された人間のせめてもの居場所である。その光景は今でもたまに思い出す。都市部に住んでいると、人間以外のものに圧倒される事は殆ど無い。その時の状況が僕にとって「快」をもたらしていた訳ではない。連れの女の子の事は別に好きでも何でもなかったので、早く家に帰りたいなあと煩わしく思っていただけだし、一刻も早くその場所を去ってしまいたいとさえ思っていたはずである。しかしながらあの無数の虫の声の塊は、漠然とした恐れと共に僕の頭の中の一角を占めて消えてくれないのである。

京都市バス 京都駅~大原

 1月6日、前日に歩き過ぎて飽きていたのもあってか、バスにでも乗って少し遠出をしたくなった。目指すは三千院と宝泉院。庭園を眺める事を目的とした1時間ほどの旅である。勿論イヤフォンから流れるBGMはくるり。
 そして、この道程が思いの外楽しくて今となってはその映像ばかりが目に浮かぶ。座席は狭く、僕如きの脚の長さでも前の座席の背中部分に膝がつっかえてしまう。それでも車窓の外を眺めていれば心躍るのである。路線は京都駅から烏丸、四条を抜け鴨川そして白川沿いの道を上流へと上っていく。鴨川では水面を鴨がよちよちと泳ぎ、白川では浅瀬にすっくと白鷺が立っている。河の下流から上流へと巡るのは楽しそうだなと夢想した事はあったが、実際に行ってみるとこれほど楽しいものだとは思わなかった。
 街を離れ、民家や人の姿が減っていく代わりに木々が増え、山が迫り川幅が細くなっていく。バス停でぽつねんと待っている人々を見ると早くバスに乗せてあげなくてはいけないような気分になる。もしかしたら今回の京都の旅で一番楽しかったのはこれかも知れない。偶然に乗り合わせた路線だが、今住んでいる関東でも、同じように河を遡る路線がないか探してみようかと思っている。

故郷という幻想背景

 年末年始に故郷へ顔を出すのが習慣になっている。そうして自分が生まれ育った土地に帰る度にいつも、何とも言いようのない複雑な気分に苛まれるのもこれまた常である。

 僕が生まれたのは如何にも取り残されたような田舎町で、帰る度に年々寂れていく街並みに淋しさを覚える事は、年老いて小さくなっていく両親の姿を見るのと同様に非常なる無力感を感じる事である。それでも両親や兄弟はその場所でしっかりと生活を続けていて、相変わらずな部分は相変わらずで、その存在に代わらぬ重みを持たせている。恐らく、彼等がもし死んでしまったとしても、後に僕の中に残るのはそういう部分なのではないだろうかと思っている。正確なところは実際にそうなってみなければ判らないが、何となくそう思うのである。

 廃れ朽ちていく部分が増えるのと同時に、新しく生まれ出る部分も増えている事も確かである。それは家族の事であれ町の事であれ同じ事。家族の誰かが目新しい何かに興味を持ち始めていたり、新しい知り合いが増えていたり、新しい店が開店していたり、新しい誰かが近所に住み始めていたりとかそういう事が色々と目に付く。確実に失われてしまうのは、かつて僕が見知っていた何か。子供の頃遊んでいた用水路が地下に埋設されてしまっていたり、登って遊んでいた神社の大木が伐採されていたり、通っていた保育園が空き地に代わり果てていたり。
 故郷とは、いつの時でも変わらぬ視線で自分を受け止めてくれる場所では決してない。勿論そういう部分が在る事も否めはしないが、それはある種の内なる幻想でしかない。自分にとっては故郷でも、現在は過去を塗り替え、自分自身の存在とは全く無関係に絶え間なく変化し続けているのだ。僕等は安心を得る為に故郷へと帰る。しかしそれと同時に過去と決別する為に故郷へと旅しているのかも知れない。

左様なら、そうであるなら、さようなら。

 此処を読んでいて思い出した。
「さようなら」「じゃまた」でなく「今度」でもない。「さようなら」は諦めの言葉なのです。相手の事情を理解して、一歩退いた上での別れの挨拶なんですね。
 昔、7年くらい前。誰かの日記サイトで同じ様な文章を読んだ記憶がある。「そういう事情であるのでしたら、私は立ち去りましょう。」そういう意味だと書いてあった気がする。当時の僕には目から鱗であった。それまでの僕が、人と会い、離れる時にどう挨拶していたのか、今一つハッキリ思い出せないが、その文章を読んで以来「さようなら」という言葉を使う事に神経質になった。二度と会いたくないとか、二度と会えないだろうとか、そんな事を思ってもいないのにその言葉は使えない。ましてや、もう一度会いたいと願う人に対しては思い浮かびもしない。

 時折、「じゃあ、また。」というニュアンスで「さようなら。」と挨拶する人と出会う。それはただの習慣の違いだと思っているので、その事について何か批難めいた事を言ったり、どういう意味なのかと尋ねたりする事はない。思い返してみれば、小学校の時は「帰りの会」が終わった後に「先生、さようなら。みなさん、さようなら。」と言うように教えられたではないか。しかしやはり、好きな人に「さようなら。」と言われると、「永遠にさようなら。」と言われているような気分になって、言いようのない不安を自分の中に見つけたりするのである。

イルミナシオン

 12月の初めからクリスマス当日まで、部屋に電飾を施すようになって随分経つ。そんな事をやり始めたきっかけは何だったのかと思い出すと、なるほどちゃんと理由は在った。

 何年前なのか思い出せないくらい昔、12月にオアフ島に行った時の事。夜のダウタウンに繰り出して、ポルノショップを冷やかしたり、顎が外れそうなくらいにデカいハンバーガーを食べたり、ストリップバーに連れ込まれたり、実弾撃ったりして遊んだりした後、連れだった数人でほろ酔い加減でホテルまでの道を歩いて帰る途中だった。
 入り江の橋を渡ると、何棟ものコンドミニアムが夜の中にそびえ建っていた。その中の一つの部屋のベランダに、小さなイルミネーションが飾りつけてあり、砂粒のように小さな三原色の光が、何をも照らし出す事なく点滅していた。その姿が、ひっそりと何かを祝い、何かを祈っているようでとても良かった。僕は夜の中に立ったまま、暫くの間その点滅を見上げていた。

 そしてその次の年の冬。僕はその光景を思い出し、真似てみようと思ったのだった。あんな風に何かを、祝ったり、祈ったりしてみたかったのだ。その時の僕に、何かしらその対象となるものが存在していたのかどうかは全然思い出せない。もしかしたら、何でも良かったのかも知れない。ただ、そうしてみたかっただけなのかも知れない。
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