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DOG ON THE BEACH

光の手

 もう20年近く前に当時の知人から聞いた話。彼女の知り合いに、患部に手を触れて病を治す施術者の女性が居たらしい。幾人もの病人が彼女の元を訪れ、その都度、彼女は患部に手を触れて病を治していた。しかし、数年後に今度は彼女自身が病を患ったが、残念な事に自分自身を治す事は出来なかったようで、果たして彼女は死んでしまった。ここら辺の記憶は曖昧だが、施術者の女性は、病人の病を自分自身の身体に移す事で、患者を治癒に導いていたという話だった。似たような話が乙一の " Kids " という小説に出てくる。
 僕の知人は施術者の女性が亡くなった時、この世の何かしらを悟ったような気がしたと言っていた。それから時を経て彼女は美術家となった。何年か前に僕は偶然その事を知った。今現在の彼女が元気でいるのかどうか、僕は知らない。何故だかこの話を今日思い出したのだ。そして時折思い出すこの話を、書き留めて置いた方が良いような気がしたから、今こうして書いている。

Arakawa River

 僕が毎朝乗る電車は荒川を越えて都心へと向かいます。もう長い間、数千回もその光景を見ている訳ですが、最近になって今までになく熱心に眺めています。河岸に寄せられた小型の船舶が数隻。河川敷を犬を連れて歩く老人。土手のサイクリングロードをタオルを首に巻いて走る年配の女性。等々の光景が毎日少しずつ違った形で見る事が出来る。確かに同じ川である事には違いないが、その日の天候に依って印象は様々だ。それらを毎朝確認するような感じで、僕は密かな楽しみとしている。例え気に入った本を読んでいたとしても、電車の先頭車両が鉄橋に差し掛かると僕は頁から顔を上げ、川面に視線を向ける。たまに、カモメが水面すれすれの高さで飛んでいるのを見かける。彼等が描く緩やかな曲線に見とれている内に電車は鉄橋を渡りきってしまう。そして僕は再び頁に目を落とす。やがて、電車は地下の暗がりへとその銀色の車体を滑り込ませる。
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