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DOG ON THE BEACH

田原坂

 およそ20年前の、確か夏。僕は福岡から民営化されたばかりのJR九州の列車に乗って、当時好きだった1歳年上の女の子に会う為に熊本へ行った。とこう書くと、当然僕は一人で列車の座席にぽつねんと座っている姿を想像するであろうが、実際には連れが居たのである。しかも女の子。彼女達は仕事場の同僚であり、僕の好きな女の子は社員で、連れの女の子はバイト。店が福岡から撤退し熊本に移ったので「半年ぶりに会いに行こうよ。」という誘いに迂闊に乗ってしまった訳である。
 そう。今思えば何と間の抜けた事をしたものだと思う。その二人連れで会いに行けばどう思われるか判りそうなものだが、当時の僕はそれが判らなかったのだ。童貞とは実に愚かな生き物である。いやまあ、そんな事はどうでも・・・良くはないが今回の話には余り関係がない。

 好きな女の子の顔を久しぶりに見て、その後熊本新市街で散々遊んだ挙げ句、終電ぎりぎりの福岡行きの列車に乗る。その復路での事。密度の高い肥後の夜を、線路を軋ませながら走る列車はやがて田原坂駅に停車した。無人駅のホームを照らす照明以外は全くの闇で、轟音にも近い虫の声が僕の鼓膜にまとわりついた。そこが西南戦争時の古戦場である事を僕は知っていたと記憶するのだが、歴史に疎い僕がそんな事に興味を持っていたとは思えないので、その場での連れの女の子が教えてくれたのだろうと思う。
 圧倒的な闇と虫の声に取り囲まれた無人駅。列車内の明かりの中とホームを照らす明かりの下は、どうにか許された人間のせめてもの居場所である。その光景は今でもたまに思い出す。都市部に住んでいると、人間以外のものに圧倒される事は殆ど無い。その時の状況が僕にとって「快」をもたらしていた訳ではない。連れの女の子の事は別に好きでも何でもなかったので、早く家に帰りたいなあと煩わしく思っていただけだし、一刻も早くその場所を去ってしまいたいとさえ思っていたはずである。しかしながらあの無数の虫の声の塊は、漠然とした恐れと共に僕の頭の中の一角を占めて消えてくれないのである。

桜坂

 東京は昨日から桜が満開であった。しかしながら昨日は所用で出かける事がままならず、本日のみの桜行脚だ。今日足を運んだのは東京は大田区に在る桜坂。東急多摩川線の沼辺駅から歩いて間もない場所に在る。福山雅治の歌で有名だし、タモリの「TOKYO坂道美学入門」でも紹介されているので、一度は行ってみたかったのである。

坂の中途に掛けられた橋の上から: 両脇の高い位置に桜の木が植えられていて、道路に追い被さるように花が咲き乱れている。この「桜が自分に覆い被さってくる」という感覚は実に良い。まあ、実際には道路は車道しかないので其処を歩く訳には行かないので非常に残念ではあるのですが。両側の高い位置にある歩道の横には住宅が建ち並んでいるので、其処の住人及び招待客達が駐車場にテーブルと椅子を並べて花見と洒落込んでいました。こういうのは地元の人達の特権ですね。羨ましい。しかしながら、此処の桜は車で坂を登ったり降りたりしながら観るのが一番美しいような気もします。

 余談ですが、此処数週間の間、僕の頭の中は「桜祭り」でありました。桜に関する歌を色々聴いたり、WEBの彼方此方で桜の画像を漁ったり、どういう訳だか解りませんが本当にもう桜色の花びらで一杯だったのです。

茗荷谷の坂

 坂を歩くなら文京区だろうと思い、池袋駅から東京メトロ丸の内線に乗り換えて茗荷谷へ。駅から外へ出ると、予想していたより街並みが近代化されており、それが気に入らないと言えばそうなのだが致し方ない。何も僕の好みに従って街が作られている訳ではない。

湯立坂: 地下鉄の駅から出て北西へ。なだらかな坂道と緩やかな坂道。その両側に木々が生い茂っている。坂道の途中に何処その不動産会社が計画している多層階建てマンションの建設に反対する野立て看板が立っていた。見慣れた美しい景観が失われるのを恐れる気持ちは解る。つい最近、僕が住む下町にもついに高層のマンションが建った。そのおかげでそれまで見渡せていた空の一部が遮られてしまうのである。それを見て人が感情的になるというのは今では十分に理解出来る。

網干坂: 小石川植物園の西側を通る坂道。植物園を囲むブロック塀が物々しい印象を受けるが、ブロックの創り出す垂直線に対して坂の勾配が認識しやすいので僕はなかなか好きである。写真に撮った場合も判りやすい。それと塀に沿って放置された自転車が侘びし気に見えてそれが良い感じである。

氷川坂: 先ほどの網干坂を登りきって、左に回るとこの坂が在る。最初は面白くも何ともないが坂下に近づくにつれて傾斜がきつくなり楽しくなってくる。写真は坂の途中に建つ民家。庭木の枝を建物の前面に這わせているのが面白い。思うのだが、坂の途中に建つ家に住むのはどういう気分だろう。窓から顔を出せば坂下を見下ろす事が出来て、玄関を一歩外へ出ればそこは傾斜する大地である。実際にそういう環境で育った人に出会った事がないのでよく判らないが、その事は人の物凄く基本的な部分に影響しそうな気がする。

播磨坂: こういった整備された道幅の広い坂は特に好きでも何でもないのだが、この坂は長く続くのでそれを歩いている時の体感は気に入った。観るのではなく、傾斜を身体で感じ続けるという事に坂道の美が伺えるのである。

 久しぶりに坂を鑑賞した訳だが、僕の習性として一旦歩き出すと疲れても何故かそのまま歩き続けてしまう。途中で脚を止め、辺りを見回せば面白いものでも見つけられるのだとは思うが、どうしてもそれが出来ない。これを貧乏性と言うのかせっかちと言うのか、何れにせよ落ち着きがないのである。

京都市バス 京都駅~大原

 1月6日、前日に歩き過ぎて飽きていたのもあってか、バスにでも乗って少し遠出をしたくなった。目指すは三千院と宝泉院。庭園を眺める事を目的とした1時間ほどの旅である。勿論イヤフォンから流れるBGMはくるり。
 そして、この道程が思いの外楽しくて今となってはその映像ばかりが目に浮かぶ。座席は狭く、僕如きの脚の長さでも前の座席の背中部分に膝がつっかえてしまう。それでも車窓の外を眺めていれば心躍るのである。路線は京都駅から烏丸、四条を抜け鴨川そして白川沿いの道を上流へと上っていく。鴨川では水面を鴨がよちよちと泳ぎ、白川では浅瀬にすっくと白鷺が立っている。河の下流から上流へと巡るのは楽しそうだなと夢想した事はあったが、実際に行ってみるとこれほど楽しいものだとは思わなかった。
 街を離れ、民家や人の姿が減っていく代わりに木々が増え、山が迫り川幅が細くなっていく。バス停でぽつねんと待っている人々を見ると早くバスに乗せてあげなくてはいけないような気分になる。もしかしたら今回の京都の旅で一番楽しかったのはこれかも知れない。偶然に乗り合わせた路線だが、今住んでいる関東でも、同じように河を遡る路線がないか探してみようかと思っている。

故郷という幻想背景

 年末年始に故郷へ顔を出すのが習慣になっている。そうして自分が生まれ育った土地に帰る度にいつも、何とも言いようのない複雑な気分に苛まれるのもこれまた常である。

 僕が生まれたのは如何にも取り残されたような田舎町で、帰る度に年々寂れていく街並みに淋しさを覚える事は、年老いて小さくなっていく両親の姿を見るのと同様に非常なる無力感を感じる事である。それでも両親や兄弟はその場所でしっかりと生活を続けていて、相変わらずな部分は相変わらずで、その存在に代わらぬ重みを持たせている。恐らく、彼等がもし死んでしまったとしても、後に僕の中に残るのはそういう部分なのではないだろうかと思っている。正確なところは実際にそうなってみなければ判らないが、何となくそう思うのである。

 廃れ朽ちていく部分が増えるのと同時に、新しく生まれ出る部分も増えている事も確かである。それは家族の事であれ町の事であれ同じ事。家族の誰かが目新しい何かに興味を持ち始めていたり、新しい知り合いが増えていたり、新しい店が開店していたり、新しい誰かが近所に住み始めていたりとかそういう事が色々と目に付く。確実に失われてしまうのは、かつて僕が見知っていた何か。子供の頃遊んでいた用水路が地下に埋設されてしまっていたり、登って遊んでいた神社の大木が伐採されていたり、通っていた保育園が空き地に代わり果てていたり。
 故郷とは、いつの時でも変わらぬ視線で自分を受け止めてくれる場所では決してない。勿論そういう部分が在る事も否めはしないが、それはある種の内なる幻想でしかない。自分にとっては故郷でも、現在は過去を塗り替え、自分自身の存在とは全く無関係に絶え間なく変化し続けているのだ。僕等は安心を得る為に故郷へと帰る。しかしそれと同時に過去と決別する為に故郷へと旅しているのかも知れない。

イルミナシオン

 12月の初めからクリスマス当日まで、部屋に電飾を施すようになって随分経つ。そんな事をやり始めたきっかけは何だったのかと思い出すと、なるほどちゃんと理由は在った。

 何年前なのか思い出せないくらい昔、12月にオアフ島に行った時の事。夜のダウタウンに繰り出して、ポルノショップを冷やかしたり、顎が外れそうなくらいにデカいハンバーガーを食べたり、ストリップバーに連れ込まれたり、実弾撃ったりして遊んだりした後、連れだった数人でほろ酔い加減でホテルまでの道を歩いて帰る途中だった。
 入り江の橋を渡ると、何棟ものコンドミニアムが夜の中にそびえ建っていた。その中の一つの部屋のベランダに、小さなイルミネーションが飾りつけてあり、砂粒のように小さな三原色の光が、何をも照らし出す事なく点滅していた。その姿が、ひっそりと何かを祝い、何かを祈っているようでとても良かった。僕は夜の中に立ったまま、暫くの間その点滅を見上げていた。

 そしてその次の年の冬。僕はその光景を思い出し、真似てみようと思ったのだった。あんな風に何かを、祝ったり、祈ったりしてみたかったのだ。その時の僕に、何かしらその対象となるものが存在していたのかどうかは全然思い出せない。もしかしたら、何でも良かったのかも知れない。ただ、そうしてみたかっただけなのかも知れない。

Love, day after tomorrow / 倉木 麻衣

 少し前に CD を整理していた時に(背表紙が無い為に普段は気付かないが)CD シングルをやけに持っている事に気付いたのです。椎名林檎とか宇多田ヒカルとか Cocco とか。発売日を調べるとほぼ同じ時期なので、何か僕の中で流行っていたのでしょうか。自分でもよく原因が掴めませんが、まあ、そういう時期だったのでしょう。しかしその中でタイトルの CD が混じっていました。・・・思い出しました。確か 1st シングルだったと思うのですが、FM から流れてきたのを聴いて「おお!」とか思って買ったのを覚えています。でもその一枚しか持っていないところをみると、あっという間に興味を失ったようです。

 実は去年の秋に沖縄へ出張した際に、58号線を車で那覇市へ向かって走っている時に FM 沖縄でこの曲が流れたのです。夕方頃営業先からホテルへ戻る途中の事。右手に水平線、灰色の雲にオレンジ色の光が混じり、まるで空が燃え落ちて来るような光景を車窓から眺めながらこの曲を聴いていました。「切なくて良いメロディだなあ」と(同行している社長と後輩の存在など忘れて)思い、東京に戻ったら是非 CD を手に入れようとメモっていたのですが・・・それっきり忘れていました。はは。まさか既に持っているとは・・・。

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