外国の貴賓としてもっとも盛大な歓迎を受けたのは、やはりグラント将軍夫妻である。南北戦争で北軍の総司令官をつとめ、ついで大統領の職にあった将軍は、大統領辞任後の明治一二年六月、世界周遊の途次まず長崎に来航し、七月の初めから二ヶ月間東京に滞在した。

 (中略)

 将軍は天皇とたびたび会見している。まず到着の翌日の七月四日、早速表敬訪問し、七月七日には朝食を共にした後、軍隊を閲兵。八月に入ってからも、上野の歓迎式でふたたび顔を合わせ、同じく八月、浜離宮で長時間、比較的打ち解けた話をした。将軍は、民主主義の利点を論じ、ただしこの最良の政治形態も、採用には慎重を期し、あまりに性急に取り入れるべきではないと語った。将軍はまた日中関係にも触れ、以前から両国が領有権を主張している琉球諸島を日本画併合するについて、中国側の感情を考慮して適切な配慮をすべきことを希望した。日本を離れる前にも、将軍はもう一度天皇と会って別れの挨拶をしている。

エドワード・サイデンステッカー著『東京 下町山の手』ちくま学芸文庫 1992年 pp.154-156