DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

Month: January 2010

自分の死に際を夢想する

 先週の水曜日、昼休みにコンビニへ行こうと僕は外を歩いていた。冷たい風が吹いていたが、空は晴れやかで大気の襞に春の予感を孕んでいた。その時僕はふと思った。いずれはこの世に別れを告げなくてはならなくなるだろうが、出来れば今日みたいな天気の日に息を引き取りたい。そう思っていろいろと妄想してしまうのだった。その内容を以下に記す。

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 早死にはしたくないので、そうだな、僕は齢90を越した老年とする。長らく古い日本家屋に住んでおり、中庭の見渡せる縁側の傍の部屋で床に伏せている。家族は・・・出来れば居て欲しいな。それが妻でも娘でも、何なら息子でもいいんだけど、長患い若しくは老衰で寝たきりになっている僕の面倒を、緩やかに看てくれる人が居た方が画も締まるというものだ。
 季節は冬の終わり。中庭には残雪が残りつつも麗らかな陽射し。風は冷たいが何処かしらに春の息吹を孕んでいるように感じる空気を吸い込み、僕は開け放たれた障子の向こうに、枯れて黒くくすんだ低木や樹木を床に着いたままぼんやりと眺めている。唯一緑を保っているのは熊笹のみで、葉の縁を枯らしながらじっと絶えて春を待っている。いつの間にか三毛の飼い猫が庭に降り立ち、残雪の掘り返している。彼は知っているのだ。其処に未だ見えぬ命が芽吹いている事を。僕は知らないうちに自分が微笑んでいる事に気付く。これまで幾多の季節が流れ、繰り返してきた己の人生が終焉を向かえている事に納得がいった瞬間だ。やがて春が訪れる。そうとなれば新しい命が次々と生まれ出で、この世は受け継がれて行くのだろう。安心した。もう充分に生きた。僕がこの世に留まる理由など一つもない。この世は豊穣だ。僕は目を閉じて、地中にうごめく命の音を楽しみながら、一つ、大きく息を吸い込んで、吐息と共にこの世に別れを告げる。さようなら世界。さようなら僕。そして僕は命の灯りを消す。

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 出来ればその瞬間には、障子の影に、妻か娘か息子に佇んでいて欲しい。一つの命が終わった事を、黙して受け止めて欲しいものである。

中央線沿線を歩く(四ッ谷〜信濃町)

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: 四ッ谷駅前に在るデッドスペース。何故なのか、何のためなのかさっぱり判らない。

:線路はトンネルに入るので全く見えない。右手の道路の反対側には新宿区立四ッ谷中学校が在る。

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上段:若葉東公園辺りから迎賓館の門を望む。

中段:迎賓館の門から敷地を望む。遠くに建物が見え、東京の真ん中にこのような空間が存在する事が不思議に思えてならない。

下段左:絢爛な迎賓館の門。

下段右:蔦なのか何なのか、紅葉した植物の絡まる迎賓館の囲い。道路の右側には学習院の初等科。

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:名称が不明な公園らしきを右側に眺めながら坂を下っていると、紅葉した樹木を並んで写生している三人の壮老年を振り返って撮る。

:燃える銀杏の木を眺むる。この辺りは東宮御所の敷地。赤坂御用地の中に入ってみたい。

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権田原の交差点を右に曲がり、明治記念館本館の正門を過ぎ、公明党本部へと入る道の近く。一体何の催しが行われたのか、明治記念館本館から振り袖を纏った妙齢の女性が大勢出てくる。

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信濃町駅前の歩道橋上から権田原交差点方面を望む。

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同じ歩道橋上から信濃町駅を望む。

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信濃町駅。

これは去年の12月初旬の散歩記録です。

12月のネオン

 去年のクリスマスの少し前だっただろうか、僕は夜の新宿を歩いていた。新宿通りの左側の歩道をJR新宿駅から三丁目へ向かって。そしてちょうど伊勢丹の入口、ショーウィンドウの光が溢れている辺りに差し掛かった時、僕の視界には歩道から外れた位置で二人の男が向かい合っている姿が入ってきた。二人とも体躯が大きく短髪で、ブルージーンにスタジャンを着ていた。例えるならば、大学か若しくは社会人のラグビー部のチームメイトという感じであった。共に 180cmは優に超えるであろう身長なので、百貨店前の人混みの中でも頭ひとつ飛び出ており、とにかく目立つ二人連れであった。そしてそんな彼らは向かい合って何をしていたのかというと、両の手を繋いでお互いの顔を見つめ合っていたのだ。とても幸せそうな表情で。
 新宿を東に向かって歩いて行けば、ゲイのカップルを見かける事はそう珍しい事ではない。しかし彼らほど幸せそうに見えるカップルを僕は見た事がなかった。僕の眼鏡に色が着いていたのかも知れないが、大体は少し緊張した面持ちで、殊更に堂々と振る舞おうとしていたように思う。だからだろうか、彼らの姿が僕の目にはとても新鮮に映ったのだ。しかし僕が持った印象はそれだけでは説明できない。洪水が如き人波に押し流されて、僕は立ち止まる事も出来ないまま彼らの傍らを通り過ぎた。夜の影を歩む僕の目が捉えたものは、粉飾された幸福の模倣などではなく、ただただ幸福な二人の人間の姿であった。そういう人達を見かける事は希だ。殊更に騒ぎ立てる必要もなく、好きな人とお互いに見つめ合いながら微笑む事が出来るというのは、なんと幸せな事だろうか。良いものを見せて貰った。そう思いながら僕は横断歩道を渡った。

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