私は東京は葛飾区の公立高校に通う二年生だ。父親は翻訳の会社で仕事をしているアメリカ人で、母親は語学学校の講師をしている日本人。仕事が縁で知り合った両親の間に生まれた私は、見た目は完全にアメリカ人だけど、中身は完全に日本人。とまでは言えないかな。家庭では日本語と英語がごちゃ混ぜになっているし、生活のスタイルは洋風だ。スタイルっていうか習慣ね。通常そういう場合は子供はアメリカンスクールに通う事が多いみたいなんだけど、私はそうじゃなかった。保育園から小学校、中学校、高校に至るまで日本の子達に混じって育ってきた。当然だけど私はどの時代においても学校で浮いていた。そりゃそうよね、他所の子に比べて顔の彫りは深いし金髪だもん。おまけに同級生の女の子の誰よりも背が高かった。それで目立たない訳がない。話すのはれっきとした日本語だし、見ているテレビなんかも同じだから話題も合うはずなのに、どうしてもみんな一歩引いた感じで私に接する。慣れてくればそれなりに仲良くはなっていくんだけど、進級したりしてクラスメートが変わると、また最初からやり直しになる。それはとても面倒だし寂しい。どうしてそうなっちゃうのかなあ。同じ意見だからそれを伝えただけなのにことさらに驚き喜ばれたり、違う意見を伝えるとどこかしら気をつかわれて慌てて同意されたり、そんなに嫌な思いをした事はないけど、何となく遠巻きにされてる気がする。自分が気にし過ぎてるのかと思って悩んだ事もあったけど、いくら考えてもそうじゃないのよね。確実な事実として私は隔てられているんだ。

 中学を卒業し、高校に上がった時に私はとうとう諦めてしまった。自分から彼らに溶け込んで行こうとする努力を。笑いかける事すらしなかった。彼らが私にするように、私も彼らを自分から隔てた。と言っても私は独りでしかないんだけどさ。でも仕方ない。

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 と或る日、私はいつものように学校がはけると独りで街をブラブラしていた。部活もやってないし塾に通うほど勉強熱心でもないのよね。ただの時間つぶし。ゲーセンはうるさくて嫌いだし、テキトーに歩き回って本屋に寄って、買った本があれば喫茶店でそれを読んでた。漫画が多いんだけどさ、そんな毎日。
 あ、話は戻るけど、その日私は本屋で漫画を物色していたのね。ちょうど「3月のライオン」の新刊が出た日で、私は嬉々としながらその本を手に取ったその時、背後から人の話し声が聞こえてきた。

「わぁ、ガイジンガイジン」

「ちょ、ちげーよ」

「なんでー、あの人金髪じゃん」

「あたしだって金髪じゃん」

「ナオちゃんはヤンキーだからでしょお」

「ヤンキー言うなクソガキ」

「だってぇ」

 ガイジン。私は子供の頃からよくそう呼ばれる。すっかり慣れてしまったけど、やっぱり心のどこかがシンと静かになってしまう。その言葉はもしかすると呪いのように私の気持ちを絡め取っていくかも知れないからだ。でもこの時はその朗らかな会話の流れについ気が緩んでしまった。
 振り返ると、そこにはショートカットの髪の毛を金髪に染めた私と同じくらいの歳の女の子と、長い黒髪をまっすぐに下ろした小学生くらいの女の子が立っていた。顔立ちが似てるので姉妹なのかしら。

「へえー!」ユニゾンで声を上げる姉妹。私が応えるより先に姉らしき女の子が喋り出した。

「あんたカッコ良いじゃん!それ地毛なんだよね?」

「え、そうだけど」

「いーなぁ。あたし染めてもあんまり良い色に染まらないんだよねー」

「ナオちゃんもともとは黒いんだから無理なんだよ」

「うっせーよチカ。あたしはどうしても金髪にしたいの」

「なんで?」今度は私と妹がユニゾンで声を上げてしまった。

「え、いや、その方がカッコ良いからさー」

「金髪にしたって良い事ないよ」つい私はそう応えてしまった。

「なんで」と訊いてくる姉。しばらく私が言い淀んでいると話を変えてきた。

「ところでさー、あんた3月のライオン読むんだね」

「うん、好きなんだ」

「そっかー。あたしも凄い好きだし、チカも好きなんだ」

「へー」

「でさ、それ、最後だよね?」

 そう言われて見てみれば、私が手にした本が最後の一冊のようで、平積み用の棚にはぽっかりと空間が出来ていた。最近はコンビニでも売っているとは思うけど、もしかしたらこの姉妹はそこは既に探して来たのかも知れない。

「あ、譲ろっか?」

「いやいや、いーよいーよ!」

「でも、すぐに読みたいでしょ?」

「ええと、そりゃそうなんだけどさー、あんたもそうでしょ?」

「まぁ、そうだけどさー」

「あたし先に読みたい!」

「チカ黙んな」

「だってぇ」

「じゃあさ、私買うけどさ、すぐに貸したげるよ」

「ほんと!?」姉妹のユニゾン。

「ほんとほんと」

「だったら番号教えるから、読み終わったら電話かショートメールちょうだい」

「うん、いいよ」

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 三日後の日曜に私はナオとマクドで待ち合わせ、本を渡した。そして色々な話をした。ナオは現在停学中らしい。何をやったのかは教えてくれなかったけど、ニヤニヤ笑ってたからロクでもない事をしたんだろう。ナオはいつでも暇だし、私は話す相手が他に居なかったので、それからも連絡を取り合ってよく会うようになった。

 そして今夜私は、一緒に年越ししようとナオの家に呼ばれている。妹のチカにも会えるし、お母さんとお父さんも居るそうだ。パパやママには友達の家に行ってくる、とだけ伝えた。意外そうな顔をされたけど何も言われなかった。ケーキを持って夜道を歩いていると、何だかスキップしたい気分になってきた。友達の家に遊びに行くのってステキだ。

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このエントリ内に書かれている事は大体に於いて事実と異なります。