ここ最近大学の時の友人に頼まれて、時折彼の工房へ手伝いに行っている。要はバイトだ。その際には彼の住む町まで私鉄の普通(関東で言う各駅停車)電車に乗って南下するのだが、今日は遠出をする予定だったのでいつもより一本早い電車に乗った。すると、いつもは殆ど見かけない高校生が座席を占拠するようにたくさん乗っており、そうかこの時間帯が彼らの通学時間なのだなと得心するに至った。
 それは良いのだが、彼らの来ている制服にどうも見覚えがなく、とは言っても僕が知っているのは25年以上前の事だが、何処の高校なのだろうと彼らの制服や学校指定のバッグを盗み見していた。目星をつけていた近くの公立高校の在る駅に着いても彼らは降りないので、おそらく少し先に在る私立高校だろうと検討を付けた。いずれにしても制服は大きく様変わりしている。どちらの高校も、かつては男子は黒い学ランで女子は紺色のセーラー服であった。ところが目の前に居る彼らは、男子はダークグレーにピンストライプで三つボタンのスーツ。女子は紺のブレザーに深緑のチェックのミニスカートに紺色のハイソックスである。女子の制服はフツーに可愛い。しかし男子の制服は正直もっさりしていてダサいと思った。何故ダークスーツなんだ。しかし考えてみれば、九州の田舎の男子高校生がダサくてもそれはそれで良いような気がする。そもそも他人事だし。

 今朝はそんな彼らを電車の中で見物していたのだが、なかなか楽しかった。

 僕のすぐ近くには席にあぶれた仲の良いグループであろう男子達が立っていた。各駅停車なので、電車が一駅進む毎に友達が乗ってきて、窓外に姿が見えれば皆でニヤニヤしながら迎え入れ、乗車するや否や軽口を叩いて喋り始める。この時間の電車の先頭車両で待ち合わせしているのだろう。なかなか微笑ましい光景である。そして、そういうグループの中には一人は居るお調子者、よく言えばムードメーカー的な役割の男子が皆にまんべんなく話しかけていた。内容と言えばどうでもいいようなつまらない事だが、友達の気持ちをほぐすには適度な話題だ。沿線にスーパーイオンモールが在るが、それについての話題だとか。

「スーパーイオン、なんが在ると?」

「知らん」

「イオン、なんか在るとね?」別な友達に向かってわざわざ繰り返す。

「なんもなかろ」

 そんな感じ。相手の友達連中も嫌そうな素振りもなくニヤニヤしながら答える。どーでもよい話だが、田舎の高校生にとってはそれが有意義であるのかも知れない。
 友達連中に一通り話しかけた後、ムードメーカーの男子が次に話しかけたのは彼らの側に立っていた一人の女子だった。

「知らんよ」クスクス笑いながらその女子は答える。

 決して美人とは言えないが、笑った顔が可愛い背が低い女子だった。車内を見回すと、席に座ってお喋りに講じている女子達がたくさん居たが、その子だけが一人「友達とは一緒じゃないし、たまたまそこに乗り合わせた」体でおちゃらけ男子グループの側に居た。僕はへーと思った。なるほどね、と。僕の偏見がそうさせるのかも知れないけど。そして言わずもがな、おちゃらけ男子グループの連中は全員その子に大注目である。もちろん興味がない体を装いながら。
 想像するに同じクラスだがまともに話した事はなく、しかし何となく気になるので側に寄ってみた、という感じだろうか。それがこのおちゃらけ男子グループ全体の雰囲気に惹かれているのだとしたら良いのだが、もしかして対象がその中の一人だった場合、行く行くは仲の良い友達の一人が明日から別行動するようになるのかも知れんねぇ、と僕は余計な心配をしていた。すると突然。

「あ、生足やんね。ポイント高かねー」

「○○も生足やったばい」

「ホントね、オレはまだ見とらんばい」

 と、男子連中が騒ぎ始めた。オッサンかお前ら。まぁ照れ隠しなんだろう。なんだろうけどあのな、今は良いかも知れないが、社会に出て同じような事を女性に面と向かって言い続けたら、此処が九州とは言えども非難を浴びる事になるかも知れんのやぜ、とまたしても無駄な心配をしているうちに僕の目的地へ着いた。

 概ね面白かった。そう言えば昔は、僕も同じような事をやってたなと思いながら僕は電車を降りた。