去年の10月30日に、広島市民球場にて行われた一人ライヴの映像。奥田がグランドに足を踏み入れて登場するところから、最後にグランドを後にするまでのノーカット編集である。セカンドベース上に設けられた小さなステージ上には奥田一人だけ。アコースティック・ギターが数本とアンプ、マイク、譜面台が四方を巡るようにセットされている。広島市民球場の収容人員は3万2000人。奥田はたった一人でその視線を受け止める。
 一人で演る事になったのは、バンドで演ると球場の騒音問題をクリア出来ないとの理由であるらしいが、結果はそれで良かったのかも知れない。観客が待ち望んでいるのは奥田の声である。アンコールで巻き起こったウェーヴは、たった一人の声を聴きたいが為に存在した。これまで数々のスポーツ競技試合での観客席で起こったウェーヴは目にしていたが、これほどまでに美しいものだとは思っていなかった。勿論それはカメラワークの違いでもあるのだけれど。
 環状に組まれた巨大なプールを波は周回し、回を重ねる毎に観客の感情を吸い上げ、高めて行く。照れながら登場した奥田の顔には、照明塔からの容赦ない量の光が降りかかる。向こう側に見える盛秋の夜空は、何もかも吸い込んで行く。