全国的に見ると、日本は美術館の数だけは本当に多い。2002年のデータでは、博物館法に則った施設と博物館類似施設を合わせると約5600館もある。それらの多くは70年代以降にできたもの。純然たる美術館はどのうちの3割程度だが、それでも1200以上もある。
(中略)
欧米では、住民がその土地の芸術や文化、歴史を保存・継承していこうとする熱意が強く、そこに美術館・博物館が中心となって役割・機能を果たしている。日本はこれがまだできていない。
美術館は、もともと美術作品を中心とした文化遺産や現代の文化的な所産を収集、保存、展示し、それらを元にして教育、普及、研究を行う施設である。だが、日本の場合は博物館法に基づいて博物館の一部を美術館としてしまったため、博物館の機能の中の、過去コレクションを定義、位置づけし、保管するという方向が色濃く出ているのが現状である。
また、新しいコレクションは美術館とは別組織の収蔵委員会によって決定される。新しいコレクションのための推薦リストが学芸員や美術評論家などから挙がってくると、委員会が多数決でそれらを決めるため、その時代においての評価や適正な予算運営を行いにくい。
(中略)
また、地方の美術館の多くは自主企画をする予算も気力も薄く、新聞社やテレビ局が企画する展覧会を巡回させることで入場者数を稼ぎ出したいというのが本音になってしまっている。
山口裕美著『観光アート』光文社新書 2010年 pp.58-60
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