I'm not there

 6人の俳優がボブ・ディランの半生をそれぞれに演じ分ける伝記映画。ディランに似ても似つかない俳優(黒人の少年や女性も含まれる)が別な名前で演じているのでとても判りづらい。全体としては、ディランがどうして古いブルースではなく現在を歌うようになったのかという事と、そこから話が飛んで、ディランがプロテストからどうやって身を剥がして行ったかという事が描かれていたのだと思う。僕はボブ・ディランの持つエピソードなどに関しては余り知らない。しかしそれを良く知る人にとっては、ディランの有名なエピソードを別な人間が演じている事に面白みを感じるのかも知れない。伝記映画なぞ当人に興味の在る人でなければ観ないだろうから、その線は間違ってはいないのだろう。個人的には、現在のシャルロット・ゲーンズブールを見る事が出来たのが良かったのだが、本編の評価とは関係はない。

 劇中で出てきた「おたずね者の心得7カ条」というものが、なかなか示唆に富んでいた。

  • その1 レインコートの警官を信じるな。
  • その2 情熱と愛には気をつけろ。両方ともすぐ冷める。
  • その3 社会問題への関心を問われたら、じっと目を見つめ返せ。相手は黙る。
  • その4とその5 本名は隠せ。自分を見ろと言われても、決して見るな。
  • その6 目の前にいる人間にすら理解できぬ言動は慎め。
  • その7 何も創造するな。誤解される。その誤解は一生付きまとう。決して解けない。

 「この人には理解されないかも知れないなー」と感じながら喋り続けると、後々になって思い返せば大凡が誤解されていたように思う。