ムラカミ・モノグラムをはじめとするルイ・ヴィトンとのコラボレーションは、「ブランドと芸術の融合はいいことである」という扉を開けてしまったようです。
 先日、大規模な予算をかけてリニューアルオープンしたパリのシャンゼリゼ通りのルイ・ヴィトンの本店に行くと、ジェームズ・タレルをはじめ尊敬する芸術家たちがルイ・ヴィトンと組んで店内内装を担当していたのです。
 仮にルイ・ヴィトンを現代の王侯貴族と捉えてみます。ビッグクライアントの下で作品を作ることは肯定しています。「アーティストがファッションブランドと組む」ということは、悪役としてわざと掟を破る行動のはずでしただからこそぼくは躊躇がなさすぎるくらいに破廉恥に本格的にルイ・ヴィトンと組んで結果を出してきたのです。
 ところがそれを欧米の本場の芸術家たちは「アートの文脈」として評価するのではなくて、「ムラカミ、うまくやりやがって。うらやましいなぁ」と捉えていたことがわかったのです。「ブランドと組んでも。ムラカミは芸術家としてのプレステージが下がるどころがオークションで高値を更新している。ルイ・ヴィトンと組むなら、芸術家としてのプレステージは上がっていくんだな。俺もやろう!」芸術家に、金銭の欠如を埋めるための詭弁を作ってあげてしまっただけだったのです。

村上隆著『芸術起業論』幻冬舎 2006年 pp.69-70