DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

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乱春

 今日の東京の最高気温は16℃。通常ならば一番寒いこの時期に、4月を想わせるこの外気の有り様は尋常ではない。誰しもが口にするように季節が狂い始めている。とは言え、個人的には有り難い。寒いのは苦手だ。身体が動かないのは言うに及ばず脳の働きも著しく減退してしまうのだ。心地良く過ごせる時期の半分くらいにしか事に及ばない。毎日毎日自分にもどかしさを覚えながら暮らしている。
 さて、こんな乱れた陽気では毎年楽しみにしている花々の開花もどうなる事やら判らない。いつ咲くかと待ちわびている開花も、これでは一体いつ咲いてしまうのかと、まるで出発時刻を知らせれていない列車を尻目に腹痛を抱えてトイレに駆け込むようなものである。あいやこれでは例えが解りにくい。しかし今この瞬間は他に思いつかない。

 昔から春に関して想っている事に、いつの日にか「桜吹雪にまみれてみたい」というのがある。ちらちらと雪が舞い落ちるように落花する桜も麗しき一興であるが、降り積もる桜の花弁に埋もれてみたいのである。積もるほどの桜を写した映像というと、その昔に友人に借りた「疵」という映画の中で、陣内孝則扮する男が白いコートを着て桜吹雪の中を揚々と歩いていた。その光景が忘れられない。
 もう一つは岩井俊二が撮った「四月物語」。松たか子主演のこの短編映画は、ロードショーで観ていたく気に入ったので翌週にまた観に行った。桜がそのままの美しさで写し取られている。
 そしてこの頃は、白洲正子の「西行」を読んでいて、この西行法師は数多く桜を読んだ事で有名だが、その中で一番知られているのであろう歌を此処に掲げる。

願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ

トニー滝谷 / 市川 準

 水面に触れるような坂本龍一のピアノ。ナレーションというより日記を読み返すように呟く西島秀俊の声。それらが主人公トニーの静けさの中で抑えられた崩壊寸前の精神の均衡を表しているように思える。イッセー尾形、宮沢りえの演技は決して彼等の感情を映し出さず、他者との間の透明な壁の存在を思わせる。他者への深い諦めと、自分に対する忠実さを人型に押し込めてしまえば、簡単にトニー滝谷が出来上がってしまうように思う。各場面で、まるでピリオドを打つように映し出される大きなガラス窓、そこから差し込む美しい光に救われたような気持ちになる。

恋愛寫眞 / 堤 幸彦

 副題の「 Collage of Our Life 」勝手に意訳してしまうのなら「我々の人生を彩るもの」。人生を彩るものとは、それは思い出であろうか、それとも光か。撮るという行為は、今自分が観ている光景が手元に欲しいから。ではその写真を他人に見せるのは何故か。伝達し共有する事ではないか。では誰と?
 写真に限らず、個人の見聞きした何かを共有したがるのは何故なのだろうか。勿論それは一部の人かも知れないが、少なくともそれが何かしらの喜びに繋がっているのだろうな。そんな風に思う。

THE 有頂天ホテル / 三谷幸喜

 登場人物達が皆可愛らしい。一体どんな魔法を使えばこんな世界が出来上がるのか。こんな風に、自分の生きている実人生を思えたらどんなに楽しく、肩の力を抜いて過ごしていけるだろうか。
 それはまあ、実人生とは違うからこその劇であり映画なのだから、比較しても仕方のない事かも知れない。ただ、何かしらのヒントにはなるような気がする。例えば自分が苦境に立たされた時、笑いながらそれを乗り越える自分自身をイメージし易くなるような。

ワンダフルライフ / 是枝裕和

 観始めは「あなたに取って、これまでの人生で一番大切な思い出は何ですか?」という、ハートフルナントカなどと銘打たれそうな映画なのかと思っていたのだが、さすがに「誰も知らない」を撮った是枝裕和である。そんなに甘い映画ではなかった。
 記憶とは、当人の都合に拠り、幾度と無く書き換えられるものである。しかしそれを誰が責められるだろうか。それが偽りであったとしても、幸せな記憶を懐に死ぬ事を夢見る事は悪い事ではないと僕は思う。「あなたは、自分自身がどういう人間であったと思いながら死にたいですか?」そういう映画であった。例え叶えられる事がなかったとしても、自身の望みをはっきりと持っている人間は終焉を迎える事が出来る。自分に嘘を吐く事が出来ず、尚かつ幸せに死にたいのであれば、せいぜい生前に幸せな記憶を増やす事に専念すべきである。

 余談だが、エンドロールのクレジットの中に懐かしい名前を見つけた。同姓同名の赤の他人なのかも知れないが、よくある名前ではないのできっとそうだろうと思っている。生きていてくれて、私は嬉しい。

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