DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

Month: September 2015 (page 1 of 2)

 美術館インフラや美術教育制度が発達していない国ではいま富裕な個人コレクターが個人美術館や財団をつくる傾向がある。彼らのコレクションはアーティファクトと呼ばれる歴史的・考古学的産物から植民地時代の絵画、二十世紀の近代絵画・現代アートまで幅広く及ぶ。そしてローカルに徹底することで、そこから入手できる最も質の高いものを収集していることが多い。彼らの美学やローカルの文化史に関する個人的視点と知識により、それらは歴史的な一貫性をもって示される。例えば私が調査した範囲では、インド、フィリピン、マレーシア、ブラジル、アルゼンチンなどで国立美術館よりはるかに質の高いコレクションを個人コレクターが所有している。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.171

 二〇一三年現在、経済はBRICsの台頭に示されるように、アジア、南米の活性化が著しい。例えば不況のスペインからブラジル人やアルゼンチン人が引き揚げるだけでなく、スペインの若者たちが南米に職を求めて移動を始めている。この逆行は文化的なイニシアティヴの転倒につながる。つまりスペイン人の移民は、ビジネスのためにブラジルのローカルの文化を学ばねばならないのだ。それはグローバル企業のマーケティング・リサーチとは異なるレベルとなる。
 この移動の図にはかつての宗主国と植民地の関係によって形成された言語的・文化的なネットワークが関わっている。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.166

 彼の《全能性》が狂気の行為に逸脱することなく、この代替世界にとどまりえたのは、その信仰の篤さに与る部分が大きかったといえよう。天使と、狂信的な独裁者の両面をもつ少年がつくった世界が、今我々の心を治療するのは、ダーガー自身が描くことで体験した、妄執を浄化するよどみないイメージ化の過程、イメージとの交感の瞬間を我々が追体験するからである。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.159

 アウトサイダー・アートと呼ばれる作品の多くはセルフトート(独学)や精神障害者らによるものを指す。画廊などできちんと発表せず、自宅にかかえこんでいたりするいわゆる《引きこもり》タイプの制作者もこれらに入れられることが多い。
 すべてに共通するわけではないが、特に精神障害者や幻覚を見るタイプの人に多いのは、オブセッシヴ(脅迫観念的)な繰り返しの表現や、自分が語る壮大な妄想の物語、世界の創造主たらんとする細部にいたるまでの世界の作り込みである。その作品には日記とも物語の断片ともつかぬ細かな文字がイメージとともに書き込まれていることも多く、あるいは、写真や印刷物、周囲のものを集めてくるプリコラージュ的な手法によるコラージュ、オブジェなども多い。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.151

 人びとの潜在的な願望や創造性を引き出す力、これが次世代のキュレーションとして最も期待される能力である。タイの映画監督でアーティストのアピチャッポン・ウィーラセタクンは、普通の人びとに自宅でソープオペラの主人公を演じさせたり、役者から聞いた自伝的ストーリーをもとにその場で脚本をつくっていく。「ハリウッド映画は観客のの欲望をひきだして映像として見せる。僕の映画は僕の欲望を人びとに見せながら、観客と一緒に新しいテリトリーに入っていく」と語る彼は、この新たな文脈の創始者の一人といってもよい。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 pp.147-148

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