日本の場合は特に、欧米と違って、メジャーのような自前の原油ソースやアクセス・ルートを持つ石油会社がほとんど存在していなかったために、「消費者への石油の安定供給」という使命に焦って、結果的には日本の業界自身が世界で真っ先にパニックに陥ってしまうという苦い経験をすることになった。
 石油調達ソースが多様化されておらず、ほとんどシェルやエッソ(現在のエクソン)、モービルなどメジャー頼みであった。このため、メジャーズが本国への供給を優先して日本へ石油を回してこないのではないかと石油会社も政府もたちまち疑心暗鬼に陥ってしまった。産油国に日本の石油会社の自前油田がほとんどなかったために産油国の情報も十分取れず、世界の消費国の中で真っ先にパニックになった。
 この結果、日本の石油会社やその意を受けた日本の商社が、石油禁輸を行わなかったイラン産などのスポット物の石油に一斉に群がって、自らとんでもない高価格をオファーしてしまった。これを見たサウジなどアラブ産油国、OPECが非常に強気になり、長期契約物の石油価格も一方的に一気に大幅に引き上げてしまって、世界の石油価格全体が急騰、暴騰してしまった。調達手段の多様性のなさが、自分で自分の首を絞める原因となった。

 (中略)

 要するに、国際石油市場の再配分機能は何とか機能していたのに、資源へのアクセスの多様性がなかった石油会社や国がパニック的な行動に陥ったり、不適切な政治介入などによって、必要以上に事態が悪化してしまったのである。

石井彰/藤和彦著『世界を動かす石油戦略』ちくま新書 2003年 pp.168-170