燃料資源から見た人類史は、高カロリー化・高水素化の歴史でもある。木炭より石炭、石炭より石油、石油より天然ガスの順で重量あたり高カロリーで、水素含有比率が高い。また、水素比率の高い燃料ほど同じ発熱量での二酸化炭素の発生量は少ない。この点、天然ガスすなわちメタンの化学構造はCH₄で、炭素に対する水素比率がこれ以上高い燃料は、自然条件では存在しない。その意味で、重量あたりの熱量と環境負荷について、天然ガスは究極の化石燃料ということになる。
 ちなみに、よく誤解されていることであるが、熱量的に見て、また環境的にみて理想的なエネルギー源としばしば考えられている純粋水素=水素ガスは、そのままの形(水素分子、また極低温で液化された液体水素も同じ)では地球上の自然界に存在していない。常に他の元素との化合物としてしか水素という元素は存在しないのである。
 その意味で、燃料としての水素=水素ガスは必ず他の水素化合物から他のエネルギー源を利用して人工的に作り出されたものであり、如何なる意味でもエネルギー資源ではない。エネルギーの面から見ると、水素は他のエネルギー資源から変換されたエネルギー媒体にすぎない。

石井彰/藤和彦著『世界を動かす石油戦略』ちくま新書 2003年 pp.182-183