メディアで目立つものを世の中における標準的な姿ととらえる危険性、自分の考え方の補強に好都合な話ばかりを信じる危うさ。そういう傾向から抜け出すのは容易なことじゃない。そして間違った認識が繰り返し繰り返し語られることで、ガセネタもいつの間にか多くの人にとっての「常識」に転化する。うそから出たまことであっても、「常識」に転化してしまった(誤)認識をひっくり返すことは、とてつもなくハードなことなんだ。
「自分にとって直接の損得に関わらない話だから大目に見ればいいじゃん」と思う人もいるだろう。けれど、今は関係がなくても、将来のいつか、自分だけではなく自分の親族にとっての損得に直結したとき、その「常識」は最強の怪物となって私たちに襲いかかる。仮に、やむを得ぬ事情で売春を行うようになったとき、「ワリキリって楽しくて贅沢したい女の子がやってるんでしょ」という世の中の空気がどれほどに残酷なものか想像してほしい。

荻上チキ・飯田泰之著『夜の経済学』扶桑社 2013年 p.7