すっかりと秋の色を帯び始めた今日この頃であるが、些か急な変化に戸惑っている。季節が順当に進めばまず、陽気は夏の余韻を残しつつも大気は乾き、空は涼しげな風を吹き流し、地上では黄金色の陽の光の満ちた時を過ごすはずなのであるが、何故かしら今年は気温がやけに低い。朝方に寒くて目を覚ましたりする。僕はそういう経験が本当に好きではないので、朝冷たくなってしまった水道水で顔を洗う時なんかに軽く落ち込んだりする。ああ、これから先は益々冷たくなっていく一方の水で顔を洗わねばならないのか。と、既に冬に対する恐れを抱いていたりもする。
これから僕が過ごす事になる季節にはこんなにも色々な良いところが在るのだ、と念頭に置いて暮らして行かねば、日々を繰り返していく事が憂鬱で仕方なくなってしまいそうだ。それはとても嫌なので、今年の初めにも書いたようにこの季節の良いところを揚げて行こうと思う。何故かこういう事はその度毎に思い出しておかないと、去年の事などすっかり忘れてしまっているのだ。
- 空の高さ。
実際には雲が薄く高い位置に流れているので空を高く感じる。夏の空に比べて圧迫感が少なく何かしらほっとした気分になる。 - 虫の声。
遠くに近くに、様々な角度から聞こえてくるこの音声は、心地良い距離感をもって僕を慰める。 - 11月に一日だけ遠くから風に乗って届く畑焼きの匂い。
確認した事はないのだけれど、恐らく千葉の方から。毎年一日だけ気付く。 - 稲やススキや葦の穂が風に揺れる様。
しかしその姿にお目に掛かれる事はなかなかない。荒川の辺に葦は生い茂っているけど。 - その年に初めてセーターを下ろして頭から被った時の衣類の匂い。
- デザート・ブーツの皮の柔らかさと可愛らしさ。
今は持っていない。その内に是非手に入れたい。 - 日本酒の舌触りのまろやかさ。
- 梨のシャクシャクとした歯応え。
- 新茶の新鮮さと柔らかい味。
- 本(特に文庫本)の活字の美しさ。
何故だか知らないけどこの季節が一番目に優しくてくっきりと映る気がする。 - J.S. バッハのチェロ・ソナタ
- ジュール・マスネのタイスの瞑想曲
こんなところか・・・意外と少ないな。何だか観念的な事柄が多いし。夏に脳が溶けてるから、その揺り返しかな。
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