私はアートを三つのカテゴリーに分けて考えている。このコンセプトはジャーナリストの小倉正史氏から教わったことだ。
 一つは、トラディショナルアート、二つめはオーソライズドアート、三つめはこの二つ以外でコンテンポラリーアート(現代アート)ということになる。
 一つめのトラディショナルアートというのは、伝統的芸術で、歴史的に見てめんめんと続いている表現のことだ。表現のスタイルが踏襲されているもの、といってもいい。この中には岩絵の具や墨を使い、花鳥風月や伝統的物語、名所絶景などを題材に筆で描く日本画や油絵の具で描かれた肖像画や風景がなどの洋画の多くが入る。陶芸や工芸の多くもこちらに含まれるだろう。
 二つめのオーソライズドアートは、権威的芸術で、日展・院展で賞を受賞したり、文化勲章に代表されるような、権威として社会的に認知されているものを指す。また茶道や生け花のように流派を形成し、その流派の中で年功序列的に偉くなってゆくような団体組織を含む。ごく一部の陶芸や工芸もこちらに含まれるだろう。また、日本で六十億円市場であるクリスチャン・ラッセンやシム・シメールなどもこちらに入るかもしれない。誰が認めた権威なのかは不明であるが、「価値がある」という前提で社会的にも名前が流通している。どうにもうやうやしく有り難そうに市場を形成しているのは今もって不思議ではあるが・・・。
 この二つ以外のすべてがコンテンポラリーアートで、いわゆる現代の芸術である。アーティストが生きていようが死んでいようが基本的に関係ない。素材や所属団体も無関係である。その中にはメジャーとマイナーの差はあるだろうが、膨大な数のアーティストがいる。

山口裕美著『現代アートの入門の入門』光文社新書 2002年 pp.25-26