次に第二条件として、自分の描きたいものや表現したい世界を、客観的に見る事が必要です。自分が置かれている時代や社会、歴史や文化の背景と、自分が描きたいものをすり合わせ、自分自身を批評できる能力がなければ、残念ながら、本人にとってよい絵は、本人にとってだけよい絵で終わります。
 例えばいろいろとギャラリーを見て、このギャラリーだったら自分の作品を並べたい、見せたいと判断できることも大切です。
 僕のギャラリーに来たこともなければ、どういう人がやっているのかも知らないで、もちろん、作品が展示されている空間を知りもしないで、資料だけを送ってくるアーティスト志願者もいます。そういう人は、自分の位置が見えていないのだと思います。自分が制作することだけに没頭するのではなくて、一歩退いて見てみる。作品に対してある程度の距離感が持てないと、作品を社会化することはできません。

小山登美夫著『現代アートビジネス』アスキー新書 2008年 pp.86-87