博多の人が「どんたく」ということばを口にする場合、「あしたはどんたく」といえば、毎年五月三日と四日に行われる行事の名称であるし、「どんたくが通る」といえば、参加者や山車、曳台を指す。同じことばながら、ニュアンスが違う。どんたくということばはオランダ語 zondag の訛で、日曜、転じて休日のことであることはよく知られている。
 古き良き時代のどんたくは魅力があった。芸自慢にとっては年に一度の晴れの日である。どの店も売り場を開放して舞台を提供してくれる。終わればほめられ、酒をつぎ料理を与えて祝儀までくれる。祝儀など期待する博多っ子はいないはずだが、祝いうたってくれたのが嬉しく、受けた方では渡さないでいられなくなるのだ。
 なんの準備もなく街頭に踊り出す者も多い。今年こそ出まいと決めていても、その日になるとじっとしていられなくなるのが博多っ子。友人を誘ってなじみの料亭へ。芸者を呼んでもみがえす街頭に飛び出す。普通の日なら、ちょっとこいと引っ張られるだろうが、この日だけは道のまん中でどんなに跳ねても飛んでも叱られず、解放の醍醐味に浸ることができる。

武野要子著『博多〜町人が育てた国際都市〜』岩波新書 2000年 pp.168-169