去年の春に僕はこういう記事を書いているのだが、暫く前に古本で買った渡辺文雄の著した「江戸っ子は、やるものである。」というエッセイを読んでいて、園児であった僕らがやっていたのと酷似した記述を見つけた。如何にそれを引用する。

 まったく変な遊びがはやっていたもんだ。ドロダンゴ。土でダンゴをつくりその強度を競いあう。
 もう少し具体的にいうと、ジャンケンで負けた方が、砂場の砂の上に、自分のドロダンゴを置き、勝った方が、その上に自分のダンゴを落下させる。もちろん割れた方が負け。割れなければ代わり番こにくりかえす。
 実に単純な遊びだが、子供達はその土ダンゴの強度を高めるために、ちょっと大げさにいえばそれこそ命がけであった。材料の土とネンドと砂の割合いをいろいろ変えてみたり、でき上がったダンゴを土にうめてみたり、またそのうめる所をいろいろ変えてみたり、それこそありとあらゆる試みにいどんだ。
 勝ちすすんだダンゴは、いつも掌中にあるため、つやつやと黒光りして、それはもう間違いのない宝物であった。このドロダンゴ(と何故か呼んでいた)の重要な材料が、イイネンドなのである。

渡辺文雄著『江戸っ子は、やるものである。』PHP文庫 1995年 p.70

 まさしくこれである。読んで思い出したが、固さを競い合う方法もほぼこれと同じであったと思う。

 渡辺氏は昭和4年に東京は神田で生まれた下町っ子である。正確には書かれていないが、そのドロダンゴの思い出が小学生低学年の頃のものであるとして昭和11年から14年。それから約35年後の福岡の田舎町で同じ遊びをしていたとは感慨深い。
 ところで、こういう遊びというのはどうやって伝承するのだろうか。先生から教えられるものではないと思うので、誰かが年長者である兄(女児はやってなかったと思うので)から教えられたものではないだろうか。年が離れた兄弟の間ではそういう事はしないような気がするので、1〜3年のスパンで、ちょっとずつ伝えられて行ったのだろう。そして、伝えたとしても年少者がそれに夢中にならなければその後の伝承はないだろう。考えてみれば結構凄い事のような気がする。

 記事を書いている間に、もしかすると僕がやっていたのも小学生の頃だったかも知れないと思い始めた。園舎(または校舎)の右側のスペース、土間と地面と花壇に囲まれた場所でやっていた記憶があるのだが、よく思い出してみれば小学校にもそういう場所があった。しかし今では保育園は学童保育所になってしまったし、小学校も校舎が建て変わっているので確認のしようがない。数年の差でしかないが、何となく気になる。