一九九〇年以降、美術館の数は増えました。ところが、景気が後退するとまず予算を切られるのは芸術文化部門です。ハコはつくってみたものの、中身までは手が回りません。近年開館した森美術館にしろ、国立新美術館にしろ、コレクションを持たずに企画展を見せることに終始するタイプの美術館が増えました。
 独立行政法人国立美術館法(二〇〇一年施行)は、この状況にさらに追い打ちをかけます。国立美術館は、自力で採算を上げなければならないのです。ますます財政は厳しく、新たにコレクションを増やすのは相当苦しい状況です。美術館行政は、芸術文化の向上といった「質」よりも、まずは入館者数や売上といった「量」を最優先課題としなければならなくなったのです。

小山登美夫著『現代アートビジネス』アスキー新書 2008年 p.190